「竜とそばかすの姫」で描かれた夢のない仮想世界 「ユートピア」と独裁制の不思議な相性(古市憲寿)
「嫌なことばかりだし、どこかへ逃げたい」。そんな妄想を誰もが一度は抱いたことがあるだろう。実際、昔から人類はユートピアという形で「ここではないどこか」を構想してきた。
かつてユートピアは、この世界のどこかにあると考えられていた。浦島太郎は海の彼方に存在する蓬莱山(現代版では竜宮城)に赴くし、アーサー王は伝説の島アヴァロンで最期を迎えた。トマス・モアの『ユートピア』も、新大陸に存在する三日月形の島が舞台だった。
しかし大航海時代と大探検時代の結果、19世紀までには地球のほぼ全貌が明らかにされてしまう。...