【韓国】王から庶民にまで愛された犬肉食が廃れ、鶏肉食が盛り上がってきた理由

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豚の焼肉店にフライドチキンの出前

 そして、その人気に便乗しようと韓国式フライドチキンの人気に火がつき、チメク文化が広がった。チメクはチキンの「チ」と韓国語でビールを指すメクチュ(麦酒)の「メク」を組み合わせた語で、チメクが広がった背景は主に2つある。

 まずは会食だ。韓国人は仕事の後、飲食店をハシゴする。1軒目は料理がメインで、2軒目はツマミを食べながらアルコールを飲み、3軒目はただ酔うために酒をあおる。チメクは2軒目にうってつけだった。

 2つ目はチキン・ペダル(配達)だ。いまは韓国版ウーバーイーツともいえる配達代行のおかげで、あらゆる飲食メニューを出前注文できるが、つい数年前までは、出前注文が容易なメニューはフライドチキンくらいだった。チキン・ペダルは、フライドチキンと一緒にビールなどを注文すると、コンビニ等で買って届けてくれる。配達先も自宅や職場などに限らない。公園、ホテル、墓地など、注文次第でどこにでも配達する。

 以前、筆者が参加したある会食で、豚肉か鶏肉かで意見が分かれたことがあった。ハシゴする時間はなく、幹事は豚の焼肉店を選んでそこにフライドチキンの出前を頼んだ。飲食店にとって持ち込みは好ましくないし、この店にとっては屈辱的な行為にも思われるかもしれないが、チキン・ペダルの存在は認めざるを得ないのだろう。

 犬肉禁止でペット飼育に走る人が増えたこととチメクが、鶏肉食の隆盛を後押ししたわけだ。

欧米メディアから「暴虐的な慣習」

 韓国式フライドチキンは、韓国農林畜産食品部が海外の16都市で行った「2020年度海外韓国料理消費者調査」で、「現地の人たちが最も好む韓国料理」に選ばれた。ニューヨーク、ロンドン、シドニーなど16都市中8都市で1位になるなど、東京と上海を除く14都市でベスト3位に入っている。ちなみに上海は10品目中4位、東京は下から2番目の9位だった。と同時に、韓国料理の満足度調査も実施され、「不満足」の1位はローマで、東京は2位だった。調査対象は各都市の居住者なので、それぞれの国にある韓国料理店の印象が色濃く反映されているのは間違いない。

 伏日の主役が犬肉だった1980年、韓国人1人あたりの鶏肉の消費量は年間2.6キロだったが、2019年には12.7キロに増加した。豚肉や牛肉の消費量も増えてはいるが、鶏肉の増加が際立っている。

 一方、犬肉の消費量が気になるところだが、残念ながらデータはない。先ほど触れたように1984年にソウル市内での販売は禁止されていたものの、1998年には年間9万3600トンが消費されたが、以降、犬食文化は「存在しないもの」とされており、食肉の衛生管理を規定している「畜産物衛生管理法」からも除外されている。とはいえ今でも犬肉を提供する食堂は存在するし、食品衛生法にもとづく許可や検査が義務付けられるが、飼育や屠殺、流通を禁止する法律はない。

 2018年の平昌五輪では、欧米メディアから「暴虐的な慣習」などと非難を浴び、政府も「五輪期間中の提供自粛」を店側に依頼したが、効果は薄かった。犬肉食文化が根強く支持されているこの証左だろう。

佐々木和義
広告プランナー兼コピーライター。駐在員として渡韓後、日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える広告制作会社を創業し、日系企業の韓国ビジネスをサポートしている。韓国ソウル市在住。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月18日掲載

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