韓国大統領選挙に早くも大国が介入 中国は「貿易」で、米国は「通貨」で恫喝
「李在明大統領」なら同盟破壊
――「中国の陰謀」を米国は黙って見ているのですか?
鈴置:中国の動きには神経を尖らせています。例えば、「Foreign affairs」に「A grand Bargain With North Korea」(7月29日)を寄稿したV・ブルックス(Vincent Brooks)前在韓米軍司令官。
大統領選挙に関し「韓国は狡猾で陰険な勢力の標的になる可能性が高い」「大衆迎合的な候補者らが反米・反同盟的な政策を維持する兆しがすでに見える」と危機感を募らせました。
「反米・反同盟で大衆に迎合する候補者」とは、左派候補の中で一番人気の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事のことでしょう。米国が最も警戒する候補者です。ただ、米国は中国のように露骨に圧力をかけるのではなく、水面下で動くと思われます。
「面従腹背の文在寅 ソウルに戻ると即、金正恩に“詫び状” 米国でも始まった『嫌韓』」でも指摘しましたが、アジア専門家のG・チャン(Gordon Chang)氏は「米国は韓国の大統領選挙に介入する力はない」としつつも「何もしないことで結果を出せる」と主張しました。
「文在寅・野たれ死に」作戦
米政治専門メディア『The Hill』に寄稿した「Bad Moon falling: South Korean leader falters in summit with Biden」(5月24日)から引用します。
・Washington cannot be seen as interfering in next March’s presidential contest. Nonetheless, Biden can influence the outcome by just doing nothing.
要は「安易な米朝交渉など文在寅政権に点数を稼がせることをしなければ、韓国の左派政権に終止符を打てる」との意見です。
米国との緊張を激化させる核・ミサイル実験に、食糧難の北朝鮮は動きにくい。それなら「北」はとりあえず放置する一方、「南」の反米左派政権の除去に動いた方が合理的です。反米左派が執権する韓国こそが対北交渉のかく乱要因となり、また、対中包囲網作りの障害物になっているのですから。
米朝交渉に慎重なところから見て、バイデン政権も「反米左派政権を野たれ死にさせ、次の芽も摘む」路線を採用したと思われます。文在寅政権が米韓合同演習をいかに嫌がろうと実施して、南北首脳会談の可能性を閉ざしたのも「野たれ死に」路線の一環でしょう。
韓国の接種完了者は日本の半分
――中国が北京五輪を舞台にした南北首脳会談を主宰し、韓国の左派支援に動いたら?
鈴置:米国は搦め手から「左派候補には投票するな」と韓国人に警告を出せます。今なら、新型コロナのワクチンの供給を絞ればよいのです。
実際、その作戦は発動済みに見えます。日本と比べると、国交のない台湾と比べてさえも米国は韓国へのワクチン供給に冷淡です。韓国では7月以降、感染者が急増するというのに、ワクチン不足により接種が足踏みを続けています。
英オックスフォード大学の「Our World in Data」によると、8月14日時点で日本の接種完了者は全人口の36・70%。これに対し韓国は18・99%と大きく差が付いています。
1回でも接種した人は日本が48・82%、韓国が43・63%とさほど差はありません。韓国政府が2回目の接種を考えずに、手持ちのワクチンを打ちまくって「見せかけの接種率」を上げようとしたためです。
その結果、韓国ではワクチン輸入が滞るたびに接種が1日数万回に留まったうえ、2回目の予約が大量にキャンセルされました。政府は1回目にアストラ製ワクチンを接種した人に対しても2回目にはファイザー製を打ったり、接種の間隔を本来の3週間から6週間に延ばすなど苦肉の策に走っています。
[3/4ページ]