韓国大統領選挙に早くも大国が介入 中国は「貿易」で、米国は「通貨」で恫喝
中国の尻馬に乗る左派
――なるほど!しっかりと韓国を脅していますね。
鈴置:もっとも、左派の与党「共に民主党」の宋永吉(ソン・ヨンギル)代表は内政干渉と中国を非難するどころか、中国と一緒になって尹錫悦氏を叩きました。
マネートゥディの「宋永吉『にわか勉強では外交できぬ』…尹錫悦の『中国THAAD発言』叩き」(7月16日、韓国語)によると、以下のように語りました。
・THAADを配備した朴槿恵(パク・クネ)政権は中国に対し備えたのではなく北朝鮮用とし、その後も政府はこの見解を維持してきたのに、中国を狙ったものと自白したのは相当にまずい。
この批判は明らかに筋違いです。「中国を狙った」と言い出したのは中国であり、尹錫悦氏は「それなら、中国のレーダーはどうなのか」と反問したに過ぎないからです。
宋永吉代表は「中国も批判しているぞ」とは言っていませんが、中国大使を非難もせずに無理筋の尹錫悦批判に乗り出したのですから、中国の「尻馬」に乗ったと見なされても文句は言えません。
「韓国人の悪い癖が出てきたなあ」というのが率直な感想です。外国から内政干渉された際に怒るのではなく、その力を借りて国内の敵を潰そうとする。韓国人が自戒を込めて言う「外勢依存」です。これを見てとった外国は干渉の度を深めるでしょう。
130年ぶりの「袁世凱」
保守系紙、朝鮮日報は社説「他国の大統領候補まで攻撃した中国大使 これに同調する与党」(7月17日、韓国語版)で、中国に対してだけでなく「外勢依存」の与党をも批判しました。
中国の力が強まるに連れ、駐韓中国大使は宗主国から派遣された総督のように振る舞い出した、と韓国人は不満を強めています。
朝鮮日報の中国専門家、宋義達(ソン・ウィダル)先任記者が書いた「130年ぶりに復活した『袁世凱の亡霊』…今度は大韓民国の主権を揺るがす」(7月31日、韓国語版)は、見出しだけ見ても韓国人の慨嘆が伝わってきます。「袁世凱の亡霊」とあるのは、この人物が1885年から1894年まで事実上の「朝鮮総督」だったからです。
韓国外交部は3月17日、当局者の発言として「駐在国の政治家の発言に対する外国公館の立場表明は、両国関係の発展に否定的な影響を及ぼすことのないよう、慎重に行われる必要がある」と表明しました。
反中ムードが高まる中、外交部も重い腰をあげたのです。が、中国政府に直接抗議する勇気は出ず、韓国記者に不満を漏らすにとどめたのでしょう。
そんな弱気の韓国を、中国はかさにかかって攻め立てます。7月21日、中国外交部の定例会見で「駐韓中国大使の発言を内政干渉と考える向きが韓国にはあるが、どう見るか」との質問に対し、趙立堅報道官は「海外に駐在するすべての中国外交官は、中国の主要な国益に関し明快な立場を表明する責任がある」と答え、韓国の小声の抗議を一蹴したのです。
北京五輪で南北首脳会談
さらに、8月6日のASEAN地域フォーラム(ARF)のオンライン外相会談で、王毅外相は8月10日に始まる米韓合同演習に関し「現情勢下で建設性を欠いている。米国がもし北朝鮮との対話を回復したいのなら、緊張を招くいかなる行動もすべきではない」と中止を求めました。中国外交部のサイト(中国語版)で読めます。これも選挙干渉の一端です。
――なぜ、合同演習が大統領選挙に影響するのですか?
鈴置:文在寅政権は合同演習を中止することで北朝鮮の歓心を買い、南北首脳会談に応じて貰う方針でした。首脳会談が実現すれば、来年3月の大統領選挙で左派候補に追い風が吹き、退任後の文在寅氏が監獄に行くリスクも減るとの計算です。
左派が政権を取る――つまりは、親米保守派がさらに5年間、政権の座から追いやられるわけですから、中国にとってもありがたい話です。
それに南北が首脳会談を実施するとしたら、来年2月の北京五輪の場を使う可能性が高い。習近平主席が南北のトップを呼んで和解させる映像は「米国に代わって朝鮮半島を仕切る中国」とのイメージを世界に広めるでしょう。もちろん、中国はこんな本音はチラとも見せず、「緊張緩和」の大義名分を前面に押し出しています。
――でも、米韓合同演習は始まってしまいました。
鈴置:合同演習が実施された後も中国は介入可能です。北朝鮮が米韓合同演習を嫌がるのは、極度の食糧不足からです。米韓が演習を始めれば、北朝鮮も対抗演習を実施する必要がある。軍にもきちんと食糧を供給できない今、下手に対抗演習をすれば反乱が起きかねない。
中国には、食糧援助をエサに金正恩(キム・ジョンウン)総書記を北京五輪に呼びつける手があります。監獄行きを何とかして逃れたい文在寅大統領はいつでも、どこでもホイホイ応じるわけですし。
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