韓国大統領選挙に早くも大国が介入 中国は「貿易」で、米国は「通貨」で恫喝
中国と米国が韓国の大統領選挙に干渉する。「大国の間を右往左往したあげく滅びた李氏朝鮮の姿を思い出す」と、韓国観察者の鈴置高史氏は言う。
保守の最有力候補に「拒否権」
鈴置:2022年3月9日に投開票の韓国の大統領選挙。半年以上先の話というのに、自らの国益に合う政権を作ろうと、米中が動き始めました。
まず、仕掛けたのは中国です。米韓同盟の堅持を訴えた、保守の最有力候補、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前検事総長に「拒否権」を発動しました。
7月14日、尹錫悦氏は中央日報のインタビューで親米路線を明確に打ち出しました。「<大統領候補インタビュー>尹錫悦氏『韓米同盟が隙間なく強固でこそ、中国も日本も韓国を尊重』」(7月15日、日本語版)から発言を引きます。
・韓国の外交安保は強固な韓米同盟から出発しなければならない点で韓米関係は定数。ところが文在寅(ムン・ジェイン)政府は韓米関係を変数にしてしまった。
・韓米関係には隙間があってはならず、それでこそ中国など他の国々がわれわれを尊重する点を忘れてはいけない。強固な韓米同盟の基本の上に、価値を共有する国家と協力関係を強化しなければならない。強固につながった国際的共助と協力の枠組みの中で対中国外交を行ってこそ「水平的対中関係」が可能。
・(中国が米韓に対し)THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備撤回を主張するためは自国の国境付近に配備した長距離レーダーを先に撤収しなければならない。
確かな米韓同盟の下、西側に残ってこそ、中国と「水平的な関係」を維持――中国の圧迫から逃れられる、と訴えたのです。典型的な親米保守の主張です。
在韓米軍のTHAADに関しては、中国はこのレーダーが自国の脅威と言うが、それなら中国も韓国を監視するレーダーを撤去すべきだ、と中国の主張の矛盾を突いたのです。これも保守の一般的な言説です。
巨大な中国市場を捨てるのか?
すると翌16日、邢海明・駐韓中国大使が尹錫悦氏への反論を中央日報に載せました。「韓中関係は韓米関係の付属品ではない」(日本語版)です。ポイントを引用します。
・韓米同盟が中国の利益を害してはいけない。私たちは歴史的に数千年の東方価値観を共有してきており、毎年貿易投資額は数千億ドルに達する。
・中韓関係は決して韓米関係の付属品ではなく、両国関係の発展は他の要素によって影響されてはいけない。
・米国が韓国にTHAADを配備したことは中国の安保利益を深刻に損ない、中国人民が不安を感じている点を強調したい。インタビューでは中国レーダーに言及したが、この発言を理解することはできない。韓国の友人から中国レーダーが韓国に威嚇になるという言葉を一度も聞いたことがないためだ。
・中韓両国は戦略的協力パートナー関係である以上、敵ではなく友好的な隣国だ。中国は防御的な国防政策を行ってきており、韓国を仮想の敵だと考えたことがない。
邢海明大使の主張は中国の公式見解――米韓同盟を否定はしないが、中国の不利益になることは一切許さない――をなぞっています。
しかし結局は「米韓同盟をやめろ」と言っているに等しい。米韓同盟の象徴たる韓国に配備された米軍のTHAADレーダーは中国の安保を損なう、と撤去を要求しているのですから。衣の下から鎧(よろい)をのぞかせた論文です。
邢海明大使は最後の段落で「(大統領選挙は)韓国の内政であり大統領選走者は皆、私たちの友人だ」と書きました。「内政干渉」との批判が起こるのを予防したつもりでしょう。
しかし、普通の韓国人がこの論文を読んだら「親米保守の大統領を選んだら、中国依存度の高い韓国経済を破綻させるぞ」と脅されたと感じるでしょう。少し前に、以下のくだりがあるからです。
・中国はすでに5億人に近い中産層の人口を有していて、今後10年間で22兆ドル規模の商品を輸入する計画だ。中韓貿易額はすでに韓米、韓日および韓-EU間の貿易額をすべて合わせた水準に近くなっている。
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