23区の工場島になぜラブホテルが? テレ東・名物ディレクターが訪ねてみると――

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チャキチャキで明るいフロントのおばちゃん

 来るものを拒むかのような扉を抜ける。

「すみません、先ほどお電話した……」

「あ、どうも~。そこで、お部屋選んでください!」

 想像するラブホテルの店員とは違う、チャキチャキで明るいおばちゃんだ。

「んー、景色の良い部屋はどこですか?」

 外から建物を見たとき、わずかながら部屋の窓が開いていたのだ。方角さえ良ければ、何度も憧れながら手が届かなかった月島食品工業、もしくは砂町アスコンの社員寮からと同じ絶景――それはおそらく、東京が一望でき、スカイツリーまで見えるのではないか――を堪能できるはずだ。

「え? 景色のいい部屋? あんま窓開かないけど。でも、えーっと、あっち? あっちか。506がいいんじゃない?」

「どっち側ですか?」

「東京側!」

 決定だ。休憩3時間、5500円。

「ウチの亭主泊まってるんでしょ? 誰と? 出して!」

 よく見ると、来店サービスでうまい棒食べ放題。ドリンクバーもある。さらに大量のシャンプーやトリートメントが飾られている。

「このシャンプーとかはなんですか?」

「ああ、それ? 部屋に備え付けもあるんだけどね。好きな銘柄があれば使ってもらおうってことで」

 至れりつくせりだ。

「ずいぶん人気なんですね。パネルけっこう埋まってますよ」

「そうなの。ここはディズニーランドが近いでしょ? だからディズニーに行く人が泊まったりするの。あの周辺だとけっこう高いでしょ? でも、最近はコロナでね……。あ、そうそう。うちは男同士も大丈夫なのよ。けっこう、断るところもあるみたい。女子会とかで来る子もいるんだ」

「へぇ、女子会も」

「一人で来る人もいるよ。現場の人ね。作業員さんとか。朝早いから、泊まっていくんだって」

 工場が多いからそこの作業員だろうか。一人で来るガテン系さんもいるらしい。

「一回現場系の人が泊まった時、奥さんが電話してきてね。『ウチの亭主泊まってるんでしょ? 誰と? 出して!』って。ホテルの名前、しっかり奥さんに伝えてたみたいで。調べたら、こういうホテルだからびっくりしたんだろうね。そのお客さん、一人だったんだけどね。でもね、朝早いからってこのホテル泊まってたのに、翌朝寝坊したみたい。はは」

 相当、朝が苦手な人だったんだろう。

不倫の客は「ちょっとそわそわしてる」

「でも、やっぱり不倫も多いかも」

「へえ、見てわかるんですか?」

「うん。なんとなくね。ちょっとそわそわしてるんだよね。ここはさ、人目につかないから。道路からひょいって降りちゃえば、本当に人いないから」

 たしかに訳ありの逢瀬に、島の隔絶性はうってつけかもしれない。

「あと、うちは部屋数より一つ少ないんだけど、ほぼ部屋数と同じ台数分の駐車スペースがあるから。都内でほぼ全部屋停められるこういうホテルは、ほとんどないんじゃないかな」

「そういえば、たしかに駐車場いっぱいでしたね」

「けっこう遠くからも来るみたい。東京と千葉以外のナンバーもあるから」

「長いんですか?」

「うん、46歳からだから、もう5年くらい。今52歳だから。」

 52には見えない。恰幅もかなりよく、いかにも肝っ玉かあちゃんというような感じだ。

「どうしてまた、ここへ?」

「前はビジネスホテルでベッドメイキングやってたんだけどね。受付やりたくなって」

「へえ、どうしてです?」

「接客やってみたかったんだよね。わたし、18歳で子ども産んだんだけど、その前、高校生の時にバイトで接客やってて楽しかったんだよね。で、その後、子ども6人産んでさ……」

「え? 6人?」

 おもわず聞き返した。ほんとうに、というか予想以上の肝っ玉母ちゃんだ。

「うん。だから、働き出したのがもう40過ぎてたんだよね。下の子がそれなりに大きくなってから。でも、その歳だとなかなか求人ないでしょ? で、たまたまビジネスホテルのベッドメイキングの求人あったからやったんだ。そしたら接客やりたかったこと思い出して、フロントやりたいなって思ったの。でもビジネスホテルのフロントって、もういまの時代、英語できないとダメなのね。だからわたしは無理で。そしたら、ここの求人があってね。しゃべりたがらないお客さんもいるから、ちょっと特殊な接客だけどね」

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