吉田輝星、中村奨成もプロではさっぱり…「甲子園バブル」という“悲しい現象”

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ドラフト上位指名に繋がりやすい

 1位指名となると、佐々木朗希(ロッテ)、堀田賢慎(巨人)、山下舜平大(オリックス)の3人だけだ。堀田と山下はいわゆる“外れ1位”であり、最初の入札で指名されたのは、佐々木のみである。これを見ると、やはり甲子園出場者はドラフト上位指名に繋がりやすいといえる。

 最も大きい理由は、やはり多くのスカウトの目に触れるという点である。高校生は、大学生や社会人に比べると公式戦の数は少ないため、多くのスカウトに真剣勝負の場を見てもらえないまま、3年間が終わってしまうケースも少なくない。

 佐々木のように、下級生の頃から“超大物”として評判になっていた選手は別だが、多くの選手は2年秋、3年春、3年夏の地方大会、練習試合が主な評価の場となる。そこで、圧倒的なパフォーマンスを見せられなければ、やはり上位に入ってくることは難しい。

 しかし、甲子園出場となれば、全国に散らばっていたスカウトが集結して、全員で視察する。GMや編成部長といった球団の編成トップが訪れる球団も少なくなく、複数の球団関係者の目で、選手の実力が多角的に評価される。

「外れ1位」だった村上宗隆

 その一方で、甲子園という“特殊な舞台”で実力以上の力を発揮し、プロ球団による評価が急上昇する“甲子園バブル”というべき現象が起きている。

 過去5年間をみると、中村奨成(広島)や吉田輝星(日本ハム)などはその代表例といえるだろう。中村は、地方大会の時点から評価は高かったとはいえ、2017年の夏の甲子園で、大会記録となる一大会6本塁打がなければ、ドラフトで競合1位にはならなかっただろう。また、吉田は当初、進学を希望していたが、夏の甲子園の大活躍で一気に評価が上がり、プロ入りに転じている。

 逆に、村上宗隆(ヤクルト)は甲子園出場経験こそあるものの、3年夏は地方大会で敗れたため、「外れ1位」という評価にとどまった。プロ入り後の中村と吉田、村上の成績を比べると、村上が突出しており、中村と吉田は入団当時に期待されたような活躍は、まだ一軍ではできていない。将来はともかく、現時点で見る限り、これは明らかに“甲子園バブル”だったといえる。

 冒頭でまとめた、一覧表を改めて見ると、甲子園で大活躍しながらも、プロで苦労している選手は多い。それを補正するには、昨年行われたプロ志望高校生合同練習会(夏の甲子園が中止されたため、開催された)のような球団側が、プロ志望選手の実力を診断する機会を毎年設けることが一つの有効な方法だが、今年は夏の甲子園が開かれるため、残念ながら、こうした話は聞こえてこない。

 もちろん、甲子園はプロ入りを目指す選手のための大会ではない。それであるからこそ、プロを目指す選手のために、その力量を正しく判断できる場は必要ではないだろうか。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月13日掲載

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