阪神「佐藤輝」はコールド負け、オリ「山本由」はヘッスラ…甲子園未出場組、それぞれの「最後の夏」

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「打倒平良」を合言葉に

 部員数が少なく、合同チームで大会に出場したこともあるのが、今季39試合連続無失点のプロ野球新記録を達成した西武のリリーフエース・平良海馬だ。

 沖縄・八重山商工時代は、2年秋からエースになったが、新チームは部員わずか9人。さらに翌春は7人でチームを組めなくなり、宮古工との合同チームで県大会に出場した。

 そして、10人の新入生が入り、単独チームで出場した夏、「150キロ超の本格派」と注目された平良は1回戦の首里戦、ネット裏のスカウトのスピードガンで最速154キロを計測した。

 だが、「打倒平良」を合言葉にマシンで160キロの球を打ち込んできた首里打線は、直球に的を絞って鋭く振り抜き、9三振を奪われながらも、計7安打を浴びせた。

 明暗を分けたのは、0対0で迎えた5回2死三塁、平良は痛恨の暴投で1点を失う。味方打線も4安打に抑えられ、9回1死一、二塁のチャンスもあと一打が出ず、0対1で惜敗。最後の夏が終わったのは、梅雨明け前の6月19日だった。

「見返してやる」と決意

“雨柳さん”の愛称でおなじみの阪神の青柳晃洋は、中学時代は3番手の控え投手。強豪校に誘われたエースを「見返してやる」と決意し、無名の公立校・川崎工科に進学。1年秋からエースになった。

 朝50本、練習後に50本のダッシュを日課に足腰を鍛え、1日に7合のご飯を食べて線の細さを克服。白石修三監督に「選手の鏡になれ」とエースの自覚を促されると、味方のエラーにイライラすることもなくなった。

 最後の夏は、2年前に甲子園に出場した強豪・横浜隼人と初戦(2回戦)で当たったが、12安打6四死球を許しながら、横手から直球とシュート、シンカーを投げ分けて要所を締め、6対5の勝利。その後、3、4回戦を危なげなく勝ち抜き、5回戦で8強入りをかけて、茂木栄五郎(楽天)が4番を打つ桐蔭学園と対決した。

 1回に1点を先制された青柳は、3回にも茂木に右越え2ランを浴びるなど、左打者を並べた桐蔭打線に被安打14の7失点。「力不足だった。もっと上に行きたかった」と唇を噛んだ。その後、帝京大を経て、高校時代からの目標だったプロ入りを実現させている。

 高校時代の悔しい経験をバネにプロで飛躍した選手たち。今年の地方大会で敗退した選手の中にも、未来のスターが何人かいるはずだ。数年後の彼らの姿が今から楽しみで仕方がない。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年8月9日掲載

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