五輪後に金融機関が窮地に? 前回の東京五輪では「山一危機」が

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 今から56年前の、ちょうど前回1964年の東京五輪が終った翌年の5月、山一證券の店頭には、預かり資産の解約を求めて顧客が殺到していた。前日の新聞に経営危機が報じられたのだ。後に破綻に追い込まれる同社だが、この時のピンチも「山一危機」と呼ばれた。

「今の世相も当時とよく似ているのです」

 とはシグマ・キャピタルのチーフエコノミスト、田代秀敏氏だ。

「オリンピック景気は、基本的に建設需要が支えてくれるものです。前回の東京オリンピックでは競技場はもちろん、首都高や地下鉄の延伸など、国家予算を注ぎ込んでインフラ整備を行った。それもあってイザナギ景気と呼ばれるほど好況に沸いたのですが、いざオリンピックを迎えた時は国の財布はスッカラカン。財政は非常に苦しい状態でした」

 ところが、大会で予想以上にメダル(29個)を獲れたことから日本全体が興奮状態になってしまう。景気低迷への心配もどこへやら。浮かれているところに襲い掛かったのが、山一證券の経営危機だったわけだ。

 この「山一危機」に対して当時の田中角栄蔵相は日銀の特別融資、続く福田赳夫蔵相が戦後初の赤字国債発行に踏み切って、難局をしのぐ。いわば“禁じ手”の連発で連鎖倒産を防いだわけだが、国の財政規律の緩みはここから始まったと言っていい。2020年度の税収は60・8兆円と、一見、前年度より増えているが、コロナ対策で歳出は175兆円。焼け石に水なのはご存じの通りだ。田代氏が続ける。

「今回も、どこかの金融機関がいきなり窮地に陥るかもしれません。それというのも企業の倒産を回避するため、公的給付金などの他に、政府は銀行・信金に企業への特別融資を命じました。この残高だけで30兆円を超えており、その多くが無利子・無担保です」

 このうち国が金融機関に返済を保証しているものは、十数%程度。実際に返済が始まると、不良債権になるものが多く見込まれている。体力のない地銀は耐えられるのだろうか。

「振り返れば、海外でも似た例があります。アテネオリンピック(04年)では巨額の運営費が負担となり、数年後にギリシャが財政危機に陥りました」(同)

 今大会で日本は60個のメダルを獲得するという強気の予測もある。さて、祭りの後にやって来るものは。

週刊新潮 2021年8月5日号掲載

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