「五輪は失敗例の宝庫」危機管理のプロが指摘 開会式の人選と弁解に疑問、菅総理の「中身のない言葉」
理論は裏切らない
もう一点、危機管理のプロとして触れておきたいのは、メダルを獲得した選手へのアドバイスです。
東京五輪では日本人選手のメダルラッシュが期待されますが、勝利を手にした瞬間から人生が変化することは避けられません。
まずは“罪”というか“罰”が変化します。無名の頃とは違って、交通事故を起こせば高い確率で「あの五輪メダリストが……」と報道されてしまう。次に、本人としてはこれまでと変わらない対応をしていても、少し強い言葉遣いをしただけで「あの人は変わった」「急に傲慢(ごうまん)になった」と批判されることもあります。さらに、メダリストを利用しようと考える人々も近寄ってくるので油断は禁物です。
その上で、もし不祥事を起こして謝罪に追い込まれた場合には、危機管理の理論を参考にしてください。
危機管理は「感知・解析・解毒・再生」というステージに沿って進めます。最も難しい「解毒」には、さらに「反省・後悔・懺悔・贖罪」という四つのステップがあります。
私が授業や講演で取り上げる成功例は、日大アメフト部の危険タックル問題です。当時の監督とコーチは謝罪会見で言い訳に終始しました。先ほど述べたふたつのトウソウ本能に支配されていたことで、二人は関東学生アメフト連盟から除名処分を言い渡されてしまいます。
その一方で、相手にケガを負わせてしまった選手は針のムシロのような会見にひとりで臨み、言い訳も反論もせず謝罪に徹しました。その結果、現役を続行することができた。危機管理における「解毒」は、被害者のダメージに対して、加害者側にも痛みを課してバランスを取ることが最も重要です。その意味で、真摯な姿勢が「解毒」に繋がった、アスリートにとってお手本となるケースだと思います。
アスリートの皆さんは「練習は裏切らない」と仰いますが、私としては「危機管理の理論は裏切らない」と申し上げたいです。スポーツと同様、正直かつ真摯な態度で臨めば、どんな危機に直面しても明るいゴールは必ず見えてきます。