戸田恵梨香が「ハコヅメ」で抜群の安定感 微妙なさじ加減で光る永野芽郁

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 戸田恵梨香(32)が抜群の安定感を見せている。近年の出演作は必ずと言って良いほど当たっている。永野芽郁(21)とダブル主演している日本テレビの連続ドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」(水曜午後10:00)も高視聴率を記録中。戸田はどこがほかの女優と違うのか。

 戸田は今年1月期には「俺の家の話」(TBS)に出演。主人公のプロレスラー・寿一(長瀬智也、42)と結婚を約束する介護ヘルパー・さくらを演じた。作品がヒットしたのは記憶に新しい。

 昨年前半まではNHK連続テレビ小説「スカーレット」(2019年度下半期)に主演。陶芸家・川原喜美子に扮した。全話平均の世帯視聴率は19.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。やはりヒット作となった。

 2018年10月期の主演作「大恋愛~僕を忘れる君と」(同)も当たった。若年性アルツハイマー病になる医師役で、ムロツヨシ(45)が扮した売れない小説家に支えられるという物語だった。

「ハコヅメ」も高視聴率をマークしている。ダブル主演の永野も交番勤務のすっとぼけた新人警官・川合麻依役を好演しているが、ドラマ全体を牽引しているのは戸田にほかならない。刑事課から交番にやってきた藤聖子を快演している。

 聖子は超敏腕警官。ミス・パーフェクトと呼ばれている。一方で毒舌も超ド級。それが嫌味になっていないのは戸田が聖子をカラリと明るく演じられているからだ。

 また戸田は過去のインタビューで何度も自分のことを「負けず嫌い」と語っているが、聖子もそう。自身の性格と重なり合っていることもあり、役がピタリとハマっている。

 さらに聖子にはコミカルな面がある。戸田がコミカルな演技が抜群にうまいのは知られている通り。当代屈指のコメディエンヌと呼んでいいだろう。セリフや仕草の間の取り方が絶妙である上、ジェンダーを前面に出さない演技ができるからだ。「俺の家の話」のさくら役も笑わせてくれた。

「ハコヅメ」には戸田のコメディエンヌとしての実力が存分に発揮できるシーンが毎回ふんだんにある。例えば第1話の1例はこうだ。

刑事課捜査1係刑事・源誠二(三浦翔平、33)「聖子ちゃんはもう刑事じゃないんだからムリすんなって」

聖子「そうしたいんだけど、刑事課が人材不足だから」

「警察学校トップだった人が、なんかやらかして交番に飛ばされちゃったから、人手が足りないのよ」

聖子「ということは同期ビリが刑事課のエース。不安しかなぃ~」

 トップは聖子で、ビリが源である。毒のあるセリフだが、戸田があっけらかんと口にするから、クスリとしてしまう。後味も悪くない。

 第2話での次のセリフも戸田が口にするからこそ笑えた。

 聖子が刑事1係の刑事・山田武志(山田裕貴、30)との関係性を、麻依に説明した時である。

聖子「警察学校時代、ムチャクチャかわいがったの。訓練中、楯に石をメチャクチャぶつけたり、警察学校の深夜パトロール中、闇討ちして押し倒したり」

 これではイジメだ。けれど陰湿には聞こえなかった。戸田がとことんポジティブに聖子を演じているからにほかならない。

 戸田は神戸市灘区で生まれた。父親が少林寺拳法の道場主だったので、本人も幼いころは拳法を学んだ。一方で漠然と女優になりたいと思っていた。ここまでなら珍しい話ではない。

 だが、戸田は並みの女優志望の子供とは違った。行動に移った。小学校5年生だった11歳の時、自らの意思で大阪の芸能プロダクションに所属した。

 それから間もなくNHK大阪放送局でのオーディションに合格し、2000年度下期の朝ドラ「オードリー」に出演する。ヒロイン(岡本綾、38)の養母を演じた大竹しのぶ(64)の少女時代という役だった。才能に恵まれていたのだろう。その後は同局が制作するドラマの常連となる。

 やがて中学の卒業期を迎えた。この時点での行動もほかの子役たちとは違った。高校卒業を待たず、単身上京。やはり自ら希望し、現在の所属芸能プロのフラームに所属した。

 広末涼子(41)らが所属するフラームには力がある上、戸田自身にも大阪時代の実績があったため、すぐに初仕事が決まった。

 木村拓哉(48)が主人公のレーサーで、児童養護施設の内情も描かれたフジ「エンジン」(2005年)だ。戸田は両親に見捨てられた女子高生役を与えられた。

 見せ場が多い良い役だった。戸田にはそれを演じる自信があった。ところが、満足できる演技が出来なかった。

「監督さんに『まくしたててくれ』と言われても全然表現出来なくて。収録が終わっても、OKとNGの違いも分からないままだった」「このままじゃ全然、ダメだ。よしっ、私は絶対に『しっかりした女優になってやる』と決意したんです」(*1)

 負けず嫌いの戸田はそれから努力を重ねた。演劇畑以外の若手女優はあまり出演しない「劇団☆新感線」によるプロデュース公演「いのうえ歌舞伎☆號『IZO』」(2008年)に出たり、セリフだらけの3人芝居「寿歌」(2012年)に挑んだり。

 努力は一時的なものではなかった。仕事に役立つ本を読み、映画や演劇を見た。そもそも仕事人間なのだ。

「学生時代は友人とおしゃべりするぐらいで、何も趣味もなく、やりたいことが何もなかった。そのくせ孤独になることが怖かった。今の仕事に巡り合って悩みや楽しさを分かち合える人と出会えたことに幸せを感じます」(※2)

 学生時代の旧友や芸能人以外の友人と話すとホッとするという俳優、女優は多いが、戸田は逆。仕事仲間と仕事に関する話をすることに喜びを感じる人なのである。

 2020年12月10日、松坂桃李(32)との結婚を自らのツイッターで発表した。その時の言葉をあらためて眺めると、仕事人間であることがよく分かる。

「皆様への感謝の気持ちを忘れることなく、役者として、より一層精進していきたいと考えております」(戸田のツイッターより)

 まるで女優として賞をもらった時に出す返礼の言葉だ。松坂は「生活環境が変わることにより、これまで以上の責任と覚悟を持ち、何事にも真摯に向き合っていきたいと思っています」とコメント。こちらのほうが結婚時の言葉らしかった。

 もちろん、戸田もうれしかったに違いない。半面、女優であることを忘れることは片時もないのだろう。

 ドラマ界、映画界では「頭の良い人」としても知られる。作品の全体像を見通し、自分のはたすべき役割を理解するからだ。なので、目立ち過ぎることはないし、見る側が物足りないと思うこともない。

「ハコヅメ」でもそう。見ていると分かる。永野演じる麻依が目立ったほうが面白いシーンはそう仕向けている。

 例えば第4話にこんなシーンがあった。

聖子「シャワー浴びておいで」

麻依「いいんですか!」

聖子「パトカーに乗った時に汗臭いの、嫌なの」

麻依「・・・」

 このシーンをリードしたのは聖子だが、目立ったのは聖子に冷たくされた麻依。聖子は少し引いており、だから笑えるシーンになった。戸田はこの辺のさじ加減が抜きん出てうまい。

 8月4日に放送されるはずだった「ハコヅメ」の第5話は永野の新型コロナ感染のため、延期になった。代わりに過去の収録分を再編集した「特別編」が放送される。

 再開が待たれる。

*1読売新聞夕刊2012年1月4日付
*2日刊スポーツ2009年11月8日付

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月4日掲載

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