友人の妻と10年不倫した男の逡巡 人は自分の都合の良いように記憶を塗り替えるのか
このままでいいのか、いいはずがない
1年後、ユウイチさんが「普通に帰ってくるようになった」とキョウコさんから連絡があった。おそらく若い彼女に振られたのだろう。自分とキョウコさんの関係も終わりかと思いきや、彼女は「今度はいつ?」と言った。
「不意をつかれて僕が黙ると、『あなたは私がユウイチに振り向いてもらえなくてかわいそうだから会ってくれていたの?』と言い出した。『最初はそんな気持ちもあったかもしれない。だけど今はキョウコと会うこと自体が僕の人生の支えなんだ』と言いました。彼女には何でもストレートに言える心地よさがあった。すると彼女はにっこり笑って、『よかった。同じ気持ちで』としなだれかかってきました。そういうところがキョウコはかわいいんです。妻だったら絶対にしない言動ですね」
ただ、不安だったのはユウイチさんにバレることだった。それまではユウイチがキョウコを不幸にするから自分が慰めているんだという内心の言い訳があった。だがキョウコさんのことが好きだと素直に言い、しかもユウイチさんが家庭に戻ったとなれば、自分がしていることは「ただの不倫」だと尚哉さんは感じていた。
「キョウコは僕の気持ちを察したのか、『私たち夫婦のことと、私と尚哉とのことは別の話。そう考えていいのよね』と。僕もそう考えるよと言いました」
家庭に戻ってきたユウイチさんは、それなりに妻に悪いと思っていたようで、「最近、やけに優しいの」とキョウコさんが言ったこともある。そのたびに尚哉さんは嫉妬した。
「ユウイチと寝てるんだろ、オレよりヤツのほうがいいのかとキョウコを責めたこともあります。嫉妬がふたりの心を煽るんですかね、それからも恋愛としてキョウコとの関係は続いています。10年になりました。その間、ユウイチともときどき一緒に飲んでいます。『あのときはおまえの言葉も耳にはいらなかったくらいだったけど、あれからだんだん冷めていったよ、ありがとう』と言われたときは心臓が音を立てました」
親友を欺いている自覚はある。だがキョウコさんへの捨てがたい思いも強い。尚哉さんから見ると、キョウコさんは泰然自若としている。
「バレたらバレただと思っている節がありそうなんですよ。あなただって浮気したでしょと言えるからでしょうけど、僕の立場としては親友を失いたくない。家庭は虚しいと思っているけど壊したいわけじゃない。このままでいいのか、いいはずがない。ずっとその二つの気持ちに引き裂かれながら、それでもキョウコに会いたくなってしまう自分がいる。50を越えてなお惑っているのが情けないです」
尚哉さんは恥ずかしそうにうつむいた。「いい年して」恋愛するのは恥ずかしいことなのだろうか。10年も続いた関係なら、もう別れられないと覚悟を決めてもいいのではないか。キョウコさんにはとっくにその覚悟ができている。
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