理研が脱毛、薄毛を克服する「毛髪再生医療」を開発 実用化のタイミング、費用は?
治療はたったの一度
では、AGAの人にはご先祖様からどんな遺伝情報がもたらされているのか。
「遺伝しているのは、思春期以降に男性ホルモンが異常に活性化し、『5αリダクターゼII型』という酵素の作用で毛乳頭細胞の働きが著しく抑制される現象です。これによって数年単位だった頭髪の毛周期が、わずか2週間程度にまで短縮されてしまう。太くて硬かった毛髪が抜けた後に新しく生えてくるのは、それまでとは打って変わって細くて短いひ弱な産毛。それで地肌が目立つことになるんです。実際、AGAに悩む男性の頭を間近で見れば、まったく毛がないわけではなく、うっすらと産毛が生えています」
ところで、抜け毛や薄毛に悩むのは女性も同じ。昨年秋には、フリーアナウンサーの傍ら女優やモデルもこなす“美のカリスマ”こと、田中みな実(34)が、ラジオ番組で“薄毛治療を始めた”とカミングアウトしてファンを驚かせた。撮影現場でヘアメイク担当者が彼女の髪の分け目に“黒い粉をトントンした”ことがショックだったという。女性の薄毛について辻氏に尋ねると、
「国内の男性型脱毛症患者はおよそ1800万人ですが、女性型脱毛症の患者はAGAのおよそ3分の1に当たる600万人程度といわれています。決して少ない数ではありませんが、女性型脱毛症のメカニズムについては、いまだに詳しいことは分かっていないんです。ただ、女性は古い毛が抜けてから新しい毛が生えてくるまでの期間が男性より長い。そのタイムラグの間は毛が減ったように見えるので、田中さんはちょうどその端境期だったのかもしれません。今後、器官原基法がAGAの治療で成果を出せば、次は女性型脱毛症の、さらにその次には難治性脱毛症の方々に朗報を届けたいと考えているところです」
辻氏の技術は人類への大いなる福音となるはずのものだ。昨年6月には厚生労働省の委員会から承認を受け、いよいよAGAの男性患者に対する臨床研究が可能になったところだが、ここに至って彼の歩みは止まったままの状態にある。
共同研究開発を進めてきた理研内のベンチャー企業が、経営に行き詰って事業停止に陥っているからだ。実用化を目前にしながらの思わぬ足踏みだが、辻氏の表情はあくまで明るい。
「最初の毛包再生の臨床試験には5億円程度を投じ、成果が確認されたら追加で10億から15億円くらいかけて、徐々に治験数を増やしていこうと考えています」
実用化が実現した際の治療費はどれくらいなのか。
「最初の100人くらいまでは5千万円ほどでしょう。1万人になれば2500万円、それ以降は1500万円という具合に下がっていく。利用者が増えるほど、それだけコストダウンが可能になります」
振り返れば、最初は月額約3万円以上もした携帯電話も、普及率の上昇とともにいまや家族全員、小学生でも持てるほどに基本料金が下がっていった。
「既存の植毛治療では1回100万円から200万円という例もありますし、それを2回、3回と繰り返さなければなりません。それに引き換え、私たちの器官原基法は一度の治療で済みます。伸びしろは大きいですよ」
薄毛治療にパラダイムシフトをもたらす最新技術。世界中が実用化を、いまかいまかと待ち望んでいる。
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