メダルを狙う女子レスラー 須崎優衣、向田真優、川井梨紗子が語る“五輪への決意”

スポーツ

  • ブックマーク

「偉大な先輩二人についていっただけ」から真のリーダーに

【女子57キロ級(8月4、5日) 川井梨紗子(26)=ジャパンビバレッジ】

 リオ五輪からの女子レスリング三人目の連覇を狙う。2017年から階級を様々に変えながらも世界選手権で3連覇している。石川県出身。至学館高校から至学館大学。父孝人さんも母の初江さんも全日本クラスの強豪で、今もレスリング指導者だ。

「道場ではママと呼ぶことを禁じられていました。負けてもほかの子のように親の所に行って泣くこともできなかった」と川井梨紗子は振り返る。

 リオ五輪の時は最年少。「馨さん(伊調)や沙保里さん(吉田)についていくだけという感じで、あまりプレッシャーもなく気楽にやれて金メダルが取れてしまった」。

 しかし、その後に試練が待ち受けていた。リオ五輪は63キロ級だったが東京五輪を目指して57キロ級に変更したことで、大学の先輩でもある五輪5連覇を狙ったレジェンド伊調馨との代表争いとなったのだ。2018年の全日本選手権の予選では川井が勝ったが、組み合わせの関係で再度顔を合わせた決勝は伊調の粘りに屈した。顔面蒼白の呆然自失の様子で会見に応じていた。しかし、2019年6月の全日本選抜選手権と7月の注目のプレーオフを戦い、大激戦でレジェンドを破った。その年9月のカザフスタンで行われた世界選手権代表になり、見事に優勝した。

 妹の友香子(至学館大学)も代表入りし、姉妹で夢を果たした。「妹のために体重を変えたように言われていますが、それはちょっと違うんです。元々、57キロでやっていた。妹の方が体が大きくなりそうで62キロ級の方がいいし」

「馨さんや、沙保里さんの背中を見てやってきました。あの二人にはとても追いつかないけど、今は自分の背中を後輩が見ているのかな。練習の時は自分のことで精いっぱいですがなるたけ、声を出すようにしています」。

 最近は見ていないが、以前、至学館大学の道場で見た志土地翔大コーチとのスパーリングは迫力満点だった。

 コロナで東京五輪は延期になった。久しぶりの国際試合と思った今年4月のアジア選手権は、直前に参加が取りやめになった。「びっくりしましたけど、後で男子の選手団でコロナの感染者が出たと聞いていかなくてよかったのかなと」。

 コロナ禍、五輪の開催の是非についてリモート取材で問うと「私にも(水泳の池江選手に来たような)『参加するな』というような声が届きました。こういう状況でオリンピック反対と主張するのは全くおかしくないとは思います。でも代表になっている私たちは頑張るしかないです。決して選手たちがものを言いにくいようになっているのではないと思います」と率直に話してくれた。川井梨紗子は以前、理不尽なことを言って憚らなかった石川県のレスリング協会会長についてもしっかりと考えを語っていたことがある。二年前に取材した頃より精神的にも大きく成長していることを感じる。

「リオでは全然マークもされていないし、『何も知らない勢い』で優勝できました。でも、その後にいろいろと怖さも知りました」と川井。21歳での栄光から5年、今や女子レスリング団のリーダーとして東京五輪に臨む川井梨紗子。

「馨先輩に勝ったのは自信にはなりましたが慢心はできません」と引き締める。普段は陽気でにぎやかな女性は、試合では大好きな倖田來未の歌を聴いて臨むという。

 超人二人の存在で、「2連覇くらい当然」とも誤解されてしまっている女子のレスリングだが、日本のエースにはのびのびと戦ってほしい。順当に行けば決勝で相見まみえそうなのはリオ五輪の53キロ級で吉田沙保里の4連覇の夢を破り、その後、57キロ級に階級を上げてきた米国のヘレン・マルーリス(29)である。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月1日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。