「毒親」はいかにして生み出されるのか 「愛着スタイル」が影響、毒親との向き合い方は?

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介護の「カラータイマー」

〈そうはいっても、いくら毒親であれ、介護が必要な局面を迎えれば、子どもなのだからせざるを得ない、さすがに親を見捨てることはできない。しかし、ただでさえ「許す」ことなどできない毒親の、場合によっては排泄物の処理も伴う介護をしなければならないのはこの上ない苦痛に違いない。

 毒親介護――。超高齢社会の日本における難題である。〉

 毒親の介護なんてできない。そう思うのは当然のことだと思います。では、どう対処すべきなのか。ここでも「手放す」ことが重要です。世間体などに囚われる必要は全くなく、毒親の介護は基本的に個人で背負わない。施設に入れるなり、ヘルパーさんを雇うなりして、社会的介護に任せる。それでいいと思います。これは親を「捨てる」こととは違い、距離を置くということです。それでも無理な場合には、最終的に「絶縁」という選択肢もありますが、安易に絶縁したところで、内にある毒親のトラウマは消えてなくなりはしません。そうである以上、手放すこと、一定の距離を取ることが効果的だと考えます。

 事情が許さず、どうしても自分で介護しなければいけない状況だとすれば、「カラータイマー」が有効です。毒親とは時間限定で接する。オムツを替えなければいけないのであれば、替えたらすぐに離れる。ここでも、自分の親なのだから常に面倒を見てあげなければならないという思い込みを手放すのです。

 例えば、毒親であっても反省し、限られた時間ではあるものの良い親として頑張って振る舞うこともある。でも、それが5分以上は続かなかったり、一日中一緒にいるとどうしても険悪な状態になったりするのであれば、「5分」「24時間」という具合に自分の中でカラータイマーを設定し、それ以上経ったら親から離れるんです。

 罪悪感を覚える必要なんて全くありません。それ以上一緒にいたら、自分がダメになってしまうからです。目的は自分の心の平和なのですし、カラータイマーが鳴るまでの「良い親」である時間帯の親を上手くサポートできたと考えれば、むしろ親孝行ですらあります。

 毒親と向き合う術(すべ)としては、手紙も有効だと思います。とりわけ、先に紹介した毒親が抱える「4つの事情」のうちの「1」、発達障害の毒親は、直接向き合うと「反撃」してくる傾向が強い。だから、伝えたいことがあったら直接ではなく間接的に手紙で対話する。直接伝えられるとそれを「奇襲」と感じて反撃してくる毒親でも、手紙であれば頭をほぐす時間が稼げます。

 似ているように思えますが、メールだと、手紙よりも手軽なのでやはり瞬間的な反撃を誘発する恐れがある。やはり、やり取りに手間暇が掛かり、時間を置ける手紙がいいと思います。

 親を手放して、自分の心の平和を求めて本当にいいのだろうか……。いいんです。親子という圧倒的な力関係のもとで、不当に、不適切に子どもをいびってきたのは誰なのか、改めて考えてみてください。「毒親問題」。それは、どう考えても子どもの問題ではなく、親の問題なのですから。

水島広子(みずしまひろこ)
精神科医。1968年、東京生まれ。慶應大学医学部卒業。同大学院修了(医学博士)。慶應大学医学部精神神経科勤務をを経て、現在は対人関係療法専門クリニックの院長。著書に『「毒親」の正体』(新潮新書)等がある。

週刊新潮 2021年7月29日号掲載

特集「コロナ禍の『親子問題』最終回 もしかして私も?『毒親』にならない術」より

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