熱海土石流、土地所有者が直撃に「話すことはない!」と激昂 遺族が語る無念と怒り
「無念を晴らしてやりたい」
遺族たちがかような感情を持つのも致し方ない事情はある。以前から天野氏は熱海の土地開発を巡り、住民と再三トラブルを起こしていた。
たとえば07年夏には、台風4号の被害で天野氏の会社である新幹線ビルディングが造成した土地で土砂崩れが発生。市が撤去を求めたが、彼らは「自然災害なので知らない」などと応じなかった。これを問題視した市議が、議会でこの一件を取り上げたものの、当時の議事録によれば熱海市は以下のように答えていた。
〈新幹線ビルディングそのものがですね、同和系列の会社でございまして、ちょっと普通の民間会社と違いますので、その辺でそういうふうな回答が来たんだというふうに考えております〉(当時の熱海市水道温泉課長)
結局、議会での追及も立ち消えとなり、崩れた土砂は税金で撤去された。
再び出野さんに聞くと、
「言ってしまえば信じられないくらいタチが悪い連中ですよ。新幹線ビルディングによる事業のせいで、私の住む熱海の上多賀地区でも土砂崩れが起きた。また仕事を受注したけど、金銭が支払われなかったという人たちだって周りに何人もいます。うちは両親が早逝したので、今回の土石流で亡くなった路子は妹というよりも、自分が育てた娘のような存在だった。私は今年83歳になりますが、残りの人生は彼女にもらったものだと思って、頑張って生きようと思います。そして、生きている間に路子の無念を晴らしてやりたい」
路子さんのご主人の友人である高橋昇さん(80)も、はとこにあたる太田洋子さん(72)を土石流によって失った。
「これはとんでもない人災です。原因を作った連中を土に埋めてやりたい。それくらい憤っていますよ。洋子の遺体が見つかったことは不幸中の幸いでしたが、まだ見つかっていない友人が2人います。土を運ぶトラックは、今回被害にあった地域を迂回するようにして出入りしていましたから、そういったことが行われている事実を何も知らない地域の人たちが、最終的に被害にあってしまった。こんな理不尽なことはない。罪を償わせてどうにかなるレベルを超えています」
そう憤り、さらに続ける。
「5、6年前から、いつか盛り土が崩れるんじゃないかみたいな話は地元でささやかれていました。10年くらい前から、怪しい業者が盛り土一帯の土地を巡って、頻繁に出入りするようになりましてね。私は熱海の農業委員を務めていた時に、業者から開発したいので協力してくれという依頼がきたこともある。その時は、ちゃんと行政の窓口へ行って正式な手続きを踏めと怒ったんですが……」
支離滅裂な言い訳
2人のワルを監督して是正させるべき行政の不作為も問われるべきだろう。静岡県は熱海市と共に「殺人盛り土」の届け出を受理した行政の対応をイチから検証するとしているが、下手をすれば役所の責任問題にも発展する恐れがあって、結論はすぐに出そうにない。
そもそも崩落した盛り土の現場には、県の条例に基づいて市に届け出た量の1・5倍強もの土砂や産廃が遺棄されていたと見込まれる。明白な法律違反で多くの人命が奪われたのだから、造成した業者や購入した所有者の刑事責任を問うことはできないのか。
元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏は、
「廃棄物処理法違反などはすでに時効でしょうが、原発事故で東電幹部ら3名を起訴したような『業務上過失致死傷』に問うことができないわけではありません。その場合は前所有者より、危険な状態を放置していたということで現在の所有者の責任を問うほうが起訴できる可能性は高いと思います。とはいえ、違法な盛り土をした者が裁かれないとなると、公平性の観点でちょっと問題がありますね」
むしろ、責任を問われるのは行政ではないかという。
「業者側と違って、県や市には土木の専門家がいて、あの盛り土の危険性を正確に認識していた。にもかかわらず、“同和で一筋縄に行かない相手だから”と尻込みして必要な対策を怠っていたと見做(みな)されるかもしれない。その不作為が過失であるとして、市や県が業務上過失致死傷罪に問われる、というケースも考えられなくはないです。同和の関係者だから特別扱いしていたというのなら、逆説的に『部落差別解消推進法』の精神にも反していますから」
最終的には遺族が民事で訴えることで、賠償金を得られる可能性もある。
環境を巡る紛争や事件を扱う森の風法律事務所の花澤俊之弁護士が解説する。
「民事で争う場合は、まず民法709条に基づき不法行為による損害賠償請求を行うことが検討できます。事業者は、近隣の宅地や建物居住者の生命財産を危険に晒すことがないようにする注意義務を負っており、それを怠(おこた)って盛り土がなされ、崩壊によって損害を受けたことを立証できれば、造成事業者に対する損害賠償請求が可能です。現在の土地所有者に対しても、盛り土崩壊の危険性を認識していたにもかかわらず放置して崩壊させたと立証できれば、損害賠償が認められる余地があります。また、谷間に土砂を捨てただけの盛り土をどう定義するかは争いがあるものの、土地工作物と認定されるならば、民法717条に基づき現在の土地所有者の無過失責任を問える余地があります。ただ、いずれにしましても、請求する側の立証の負担は大きいですし、たとえ認められたとしても破産されてしまうと請求の実現は困難になるでしょう」
だからというわけか。冒頭の麦島氏は、本誌記者とのやり取りの中で、以下のようにも話していた。
「崩れたのはうちのせいじゃない。段々畑だと思っていた。(盛り土があったとは)知らなかったのと同じでしょう。詳しいことは……わからんっ!」
支離滅裂な言い訳ながらも、土石流になった原因は前オーナーにあるとして、危険性を認識していなかった点を強調するのだ。
片や以前本誌で取材に応じた天野氏は、
「(盛り土のあった土地を)私は売ったわけですよ。それ以来、現場には行っていません。もう10年も前のことだし、この間に役所も麦島さんと何をしていたのでしょうかと。盛り土があるとわかっていたはずで知らないわけがない」
などと、醜い罪の擦(なす)り合いに終始する有様で、謝罪の気持ちは微塵も感じられなかった。このまま彼らの逃げ得を許せば、遺族たちの無念はいかばかりか。
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