アーチェリー男子団体 “見えない敵”を制して銅メダル 3人が語った「チームワーク」とは
アーチェリー男子団体(26日)で日本はこの種目初の銅メダルを獲得した。
準決勝で、シュートオフ(延長戦)の末、リオ五輪金メダルの韓国に惜敗した後の3位決定戦。相手はオランダ。序盤からオランダが10点、10点、9点と高得点をマーク。日本も河田悠希が10点、ロンドン五輪で個人銅メダリストの古川高晴が8点、個人予選で5位に入った武藤弘樹が10点に入れたが、オランダはさらに10点、9点、10点と畳みかけ、第1セットを奪われた。
本来なら、地元の利があるはずの東京五輪だが、無観客で大声援もない。アウェーの重圧があるはずの相手チームにのしかかる地元の熱気もない。海に近い夢の島公園アーチェリー場は風の方向が不規則で、地元・日本選手でさえ風が読みにくく、有利とは言えない。
風は把握できていたのか? 風の読みに苦しんだのか? 銅メダルを獲った翌朝、尋ねると選手たちはそれぞれこう話してくれた。
最初に河田。
「僕が一番手でシューティングをしたので、必然的に風を読まないといけない立場。風が前から後ろから左右、全部から吹くような感じで、風自体はそんなに強くなかったんですが、方向がすごく変わる中でシューティングしなければならなかったので、すごい難しいと言えば難しい風でした。で、風を読んでも、自分が緊張しちゃってミスをすることもあって、後ろの二人に風の方向だけ伝えるってこともありましたし、二人から風のアドバイスを受けることもあった。そういうチームワークを発揮しながら風への対策をしていました」
その言葉を受けて古川が続ける。
「風は確かに行ったり来たり、右から左から前から後ろからだったんですけど。そこまで強くはなかったので、基本的にちょっと右に狙いを外すくらいでした。それと、観客席の上に国旗が並んでいますけど、そこの旗を見ていたら、的に向かって立った時、右後ろから吹いて来るような風が基本的な風だったので、その風を読んでいました。一番手の河田選手が風読みをしてくれて、風読みの失敗も時々ありましたけど、それをきちんと聞いて、河田選手はこう風読みをして10点入ったんだな、ミスしたんだなってことを判断して、僕も風読みができたので、すごく参考になりました」
風読みに少し戸惑う日本に対して、オランダが打つ時には風が止まるなどの勝負の綾も乗り越えながら、日本は土壇場で追いついた。セット・カウント2対2、準決勝に続いてシュートオフに勝負は持ち込まれた。勝ったチームが銅メダル。先にオランダが打ち終わる。10、9、9で28点。日本は河田、古川ともに9で18点。残る武藤は最低でも10点が必要。銅メダルか、4位か。運命は武藤のラスト・ショットに託された。
重圧のかかるこの場面で、武藤は冷静に矢を射って、10点、それも「インナー10」と呼ばれる内側の丸に矢を刺した。この瞬間、日本の勝利、そして銅メダルが決まった。
武藤が振り返る。
「僕は三番手、先にお二人が打って、その情報をもらった上で一本打つので、もちろん難しい場面ではあったんですけど、二人が上手に風を読んでくれたので、それで僕も当てることができました。本当に二人の風読み能力のおかげで僕は当てられたかなと思っています。
これが団体戦のよさであり、チームワークであり、風の難しい射場ではあるんですけど、それぞれのいいところで補い合って読めたかなと思います」
各選手のスコア合計で競うアーチェリー団体戦。だがそれは単なる足し算でなく、このようなチームワークがプラスアルファのチーム力を生み出す。そのチームワークが、日本男子に銅メダルをもたらした。
「見えない敵」という意味では、無観客の影響はどうだったのか?
数々の大舞台を経験している古川は言った。
「違和感がありました。通常のオリンピックなら、試合前からスタンドに人が入っている。それを見てドキドキするんだけど、無観客なので、小さな国際大会みたいな感じでした」
ベテランにとっては物足りなさもあったろうが、五輪初出場の河田にとっては幸運だったといえるかもしれない。
「ロンドン五輪、リオ五輪の映像を繰り返し見て、観客がいる会場を想像してイメージ・トレーニングも重ねてきました。大観衆を想像しただけで手から汗が出ました……」
練習どおりのパフォーマンスができたのは、過度の緊張をせずに済んだからかもしれない。