「寝取られ趣味」の夫婦に巻き込まれ、やがて本気の不倫に… 残された3つの選択肢
2人で会う日と、3人で会う日
次に連絡が来たのは1週間後だった。
「大野さんが、『ミヤコがあなたのことを好きになったと言うんですよ。どうですか』と。僕も彼女のことは好きだし、なにより大野さんに興味が湧いてならなかった。だからまた会うことにしたんです」
今度はホテルのルームサービスでちゃんと食事をしようと提案された。そこで初めて、彼は自分の本名を明かした。プライバシーは探らないと大野氏は言った。
「でも僕は大野さんの名刺ももらっているしと言ったら、『こちらがお願いしているんですから』と謙虚でしたね。今回は同じ部屋で見ていていいかと言われたので、どうぞと言いました。僕はあの夫婦のことをすっかり好きになっていたんだと思う」
大野氏は同じ部屋の片隅でじっと動かなかった。何かに耐えているかのようだった。ミヤコさんは祥平さんと抱き合いながら、耳元で「私、あなたに本気になりそう」とつぶやいた。
月に2,3回、そうやって3人の特別な時間が続いた。1年近くたったとき、帰りのタクシーの中で、彼はミヤコさんからのメモのような手紙を見つけた。
「そこに彼女の気持ちが書いてありました。僕に本気になってしまった。ふたりきりで会えないか、と。携帯電話の番号や他の連絡先なども書いてあった。悩みました」
変わった環境下で関係を結んできたのだが、彼もミヤコさんにどんどん惹かれるようになっていたのだ。とはいえ大野氏を裏切るようなことはできないという思いもあった。
「そのころにはお互いにかなりプライベートなことも話すようになっていたんです。大野さんがいかにミヤコさんを愛しているかも聞いていた。だから、翌日、僕は大野さんを裏切れないとミヤコさんにメッセージを送ったんです。それでも『会ってくれないと私は死んでしまう』と物騒な返事が来たので、心配になって待ち合わせ場所に行きました」
夫は出張しているとミヤコさんは言った。祥平さんはいつも気になっていることを尋ねてみた。自分と関係をもったあと、夫婦はどんな会話を交わしているのか、これによって夫婦関係に変化はあったのかということだ。
「大野さんには若いころから、そういう嗜好があったそうです。でも娘さんもいるし、なかなかミヤコさんに自分の願望を告げることができなかった。こういう行為をするようになったのは、夫が浮気をしたから。ミヤコさんが怒ると、『じゃあ、オレの願望をかなえてくれないか』と大野さんが言い出したそうです。それが寝取られ願望だった。ミヤコさんはびっくりしたけど、夫が浮気をしないならという条件でやってみることにした。渋々ながらやってみたら、夫はものすごく優しくなり、家事も手伝ってくれるようになった。彼女が『もうやりたくない』と言えば、夫の願望は満たされなくなるからでしょう。ただ、今までは夫を満足させるためだけにプレイとして応じてきたけど、僕に対しては本気で感じているし、好きになっていることを夫も薄々気づいている。だから夫は嫉妬で身を焦がしながら、私を愛してくれていると……。衝撃的でしたね。そういう愛し方もあるのか、と」
ただ、ミヤコさんはもう自分の心に嘘をつけなくなったと泣いた。「好きなの。祥平さんのことが本気で好き。苦しいの」と言うミヤコさんを彼は抱きしめるしかなかった。
「そういえばはじめのころ、もし奥さんに本気で好きな人ができてしまったらどうするんですかと、大野さんに聞いたことがあるんです。彼は目を潤ませながら、『そのときはミヤコの気持ちを優先するしかないですよ』と小さい声で言っていました」
それが現実になってしまった。ふたりはお互いの気持ちを確認しあってから、夫抜きで会う日をもうけた。月に1度がせいぜいだが、その日だけは夫の目を気にせず、ふたりきりで愛し合える。だが、その次にふたりが会うときは、夫の眼差しのもとだ。祥平さんは自分の心が引き裂かれるような気がした。大野さんの前でしていることが演技のように思えてきた。
「そろそろ大野さんに見られるのを卒業したい。でもそうしたら、大野さんはまた別の男性を誘うでしょう。ミヤコさんはそれは嫌だと言うし、僕も耐えられない。いっそ彼女が離婚すればいい。そう思うけど、僕は子どもたちのことを考えると離婚などできない。妻にも何の非もありませんし。選択肢は僕が身を退く、今まで通り、3人のときとふたりのときを演じ分ける、ふたりきりで会うのを辞めて最初の関係に戻る。この3つしかないんですよね」
ミヤコさんは祥平さんとは絶対に別れないと言っている。ふたりきりの時間がないと、夫の願望を満たすためのプレイもできないと断言した。
「もう少しだけがんばってみよう。つい先日、ふたりでそう誓い合いました。興味半分で足を突っ込んだら、ミヤコさんというとんでもなく素敵な女性に会って心身共に本気になってしまった。僕自身は巻き込まれたような気になっていたんですが、よく考えたら大野さんも高リスクで生きている。不思議な関係だと思います」
瓢箪から駒とはこのことだろうか。そう誰もが経験できることではないが、その経験が今後、どういう展開を生んでいくのか、私のほうが興味津々となった。
[2/2ページ]