「寝取られ趣味」の夫婦に巻き込まれ、やがて本気の不倫に… 残された3つの選択肢

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 最初は「遊び」のつもりだったのに、いつの間にか本気になってしまった。男女間では関係も変化していくものだから、こういうことはときどきあるだろう。ふたりきりの恋愛関係ならそれでもいいが、夫婦の性的嗜好に巻き込まれた場合、事態はどう展開していくのだろうか。【亀山早苗/ライター】

 知人が、「話をしたいと言っている男性がいる」と紹介してくれたのは、都内在住の橋本祥平さん(46歳)。既婚者で、中肉中背、少し渋い感じの「いい男」である。彼の嗜好と、とある夫婦の嗜好が交錯したところから話は始まった。

「2年ほど前、ちょっと変わった性的嗜好の夫婦と知り合いまして」

 こういうとき多くの男性は、こちらを気遣うように、あるいは探るようにちらと顔を見る。何を聞かされても動揺はしないと告げると、祥平さんは話し始めた。

 彼が「大野夫婦」と出会ったのは、1年半ほど前、繁華街のパブレストランだった。祥平さんは仕事関係の知人が主催する小さなパーティに出席していた。ときどきトイレに行ったり電話をかけに行ったりして会場を出入りしていると、同世代と思われる男性から声をかけられた。

「いきなり名刺を出されました。ある会社の代表取締役と書いてあった。『都内で小さな会社を経営しています』と彼は言いました。『折り入ってお願いがあるんですが、5分ほどお時間をいただけませんでしょうか』と。非常に紳士的で折り目正しい人でした。もうじきパーティがお開きという時間だったので、あと15分もすればフリーになりますので、待っていただいてもいいでしょうかと僕も丁寧に応じました」

 ヘッドハンティングというわけでもないだろうし、いったいどういうことだろうと彼は不審に思った。だがレストランという公の場である。しかも男性は礼儀正しい。一応、話しは聞いてみようと決めた。男性が戻っていった席を見ると、楚々とした感じの女性が座っていた。「きれいな人だな」と思ったという。

 20分後には祥平さんは、大野夫婦と同席していた。夫は妻を「ミヤコと言います」と紹介した。ミヤコさんは細い手を差し出し、祥平さんはその手を握った。ひんやりとした手だった。

「大野さんは自分の会社の事業内容を簡単に話し、怪しいものではないと強調しました。ミヤコさんはその間、微笑みを絶やさず、ときどき夫の話にうなずいていた。彼は僕に名刺を要求したり名前を名乗らせたりはしませんでした」

 大野氏は一息ついて、「折り入ってお願いという話なのですが」と思い切ったように言った。

「不愉快だったら、すぐに席を立っていただいてかまいません。実は私には寝取られ願望があるんです。ご存じですか、そういう性癖を」

 言われてすぐには理解できなかった。だが、少し考えればわかる。世の中には、自分の妻や恋人を「寝取られたい」と願う男性がいることは知っていた。これはあくまでも性的プレイ。性には妄想や願望がつきものなので、寝取られたい男性の妻も含めて、誰もが納得していれば問題にはならない。ネットにはそういう趣味の人たちが集まるコミュニティや掲示板もある。

「私たち夫婦の場合は、ネットなどは使いません。妻が気に入った男性とちゃんと話してコミュニケーションをとり、その上でお願いすることにしています。これは夫婦間のルールなんです、と大野さんは言いました。正直言うと、大丈夫かよ、この夫婦と思ったんですが、どう考えてもふたりが“おかしな人たち”とは思えない。あくまでそういう趣味なんですと彼は強調しました。同じ牛肉でも、すき焼きが好きな人もいれば、しゃぶしゃぶが好きな人もいる。そういうことです、と」

 祥平さんは、「非常に失礼ですが」と前置きして疑問を投げかけた。

「寝取られることでご主人が興奮するんですか。嫉妬はしないんですかと聞いたんです。すると大野さんは苦しそうな顔をして、『嫉妬しますよ。私は部屋の隅で見せてもらうことが多いんですが、本当につらい。でもそうすることで、ミヤコが自分の妻であり、世界一大事な人だと認識を新たにするんです』と。正直言って、僕には理解しづらい感覚でしたが、彼の表情を見たら、そういうこともあるんだろうなと納得するしかなかった」

 その「寝取ってくれる相手」を祥平さんにお願いしたいというのが、大野夫婦の要求だった。こうしたお願いをすると、多くの人は、あとで強請られるのではないか、バックに危ない人たちがついているのではないかと恐れをなして逃げていくと、大野氏は言った。

「僕は、彼が怖いとは思わなかった。実際、そういう趣味をもつ夫婦がいることも聞いてみればわかる。ただ、僕に家庭があるし、体力に自信がないのでお役に立てるかどうかわからない。あちらが率直なので、僕も正直にそう言いました」

 大野氏は、秘密は厳守すると確約した。受けてくれれば相応のお礼もする、と。ただ、お金を払うことはできない。そうすると妻を売ったことになってしまうと顔を歪めた。

「その表情を見て、僕はやってみようと決めたんです。彼は本当に妻にとって『いい人』を探そうとしている。僕がいい人かどうかわからないけど、お眼鏡にかなったのなら引き受けてもいいんじゃないかと。お金が派生しないなら、気軽に辞めることもできますし」

 大野氏は、もちろん祥平さんにも断る権利があると断言した。1度で嫌なら断ってくれてもいい。何回続くかはお互いの相性によるから決められない、と。

「ミヤコさんは僕でいいんですかと聞いてみました。すると彼女、僕の手に自分の手を重ねてきたんです。そのとき白くて細い指が僕の指のまたをさっと撫でた。それだけで体が震えるような興奮がありました。大野さんも見ていたんでしょう、妻の顔を見ながら耳を赤くしていた。嫉妬していたんだと思います。ミヤコさんは自分がどう振る舞えば、大野さんが嫉妬するかわかってやっている。そう思いました」

 不思議で淫靡な世界へ、祥平さんは足を踏み入れた。

毒を食らわば皿まで

 祥平さんには学生時代からつきあって、28歳で結婚した妻との間に16歳と14歳の子がいる。大野夫婦は、現在、ともに48歳。高校時代の同級生で、24歳で結婚したそうだ。すでに成人したひとり娘がいると話してくれた。

「その日、ふたりは近くのホテルに泊まるので一緒にどうですかと言うんです。出会ったその日にそんなこととは思ったんですが、このまま帰ったらかえって悶々としてしまう。そう思ったので、ついていくことにしました。毒を食らわば皿までという心境でしたね」

 祥平さんは思い出したように含み笑いをした。

 ホテルは次の間つきのスイートルーム。大野氏は次の間に入ったまま出てこない。すぐにルームサービスが来て、高級なワインとチーズや生ハムなどのつまみが並んだ。ミヤコさんとふたりでワインを飲んでいると、彼女がすっと立ち上がってバスルームへ行った。

「彼らにとって非日常へワープする時間なのだと気づきました。僕は彼女を満足させるためにここにいる。彼女は魅力的な女性だったし、隣の部屋を気にしなければ男としてはうれしい展開なんだ、と自分に言い聞かせました。それでも緊張して彼女と入れ替わりに入ったバスルームで足がもつれて転倒しかけました(笑)」

 彼自身も、かつてないような興奮状態だったのかもしれない。ベッドで人妻を相手に、あらん限りの努力をした。途中で隣の部屋の方をうかがうと姿は見えなかったが、確かに覗かれている気配はあった。少し高揚したと彼は言う。

「コトが終わると雰囲気を察して、僕はバスルームに入って帰りました。大野氏がタクシー券をくれて。SNSで連絡がとれるようにしましたが、携帯電話の番号は聞かれなかった。本名さえ明かしていません。どこまでも大野さんは紳士的でした」

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