「稲葉篤紀監督」は戦訓にできるか…屈辱にまみれた“北京五輪の悲劇”

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情の采配が裏目に

 そして、「せめて銅メダルを」と期待された翌23日の米国との3位決定戦も、3回に佐藤の左飛落球をきっかけに失点し、4対8と逆転負け。3A主体のオールマイナーの米国に予選リーグに続いて敗れたのは、日本のファンにとっても大きなショックだった。

 この日も星野監督は、佐藤を“鬼門”のレフトで使い、本来先発タイプの川上を5試合目のリリーフ起用で傷口を広げるなど、情の采配がことごとく裏目に出た。

 投手10人のうち7人までが先発タイプで、リリーフは、先発と併用の上原浩治を含めても、藤川球児、岩瀬の3人だけ。このバランスの悪さも、短期決戦では不利に働いた。

 4位という期待を裏切る結果に、星野監督は「私に力がなかった。金メダルを待っていたファンには、申し訳ない思いで一杯」と肩を落としながらも、選手たちに「この経験を将来、指導者になったときも忘れないでほしい」の言葉を贈った。

「力がなかったということ。精神的にも技術的にもボヤッとしていると、世界は勝てない」と悔し涙を流した稲葉現監督もその一人だ。

 だが、北京では悪夢に泣いた星野監督も、楽天時代の13年の日本シリーズでは、「良い状態で投げたい」というエース・田中将大の気持ちを汲んで、CSから中4日での第1戦先発に固執せず、第2戦にスライド。第5戦では、5回まで1安打無失点の辛島航を6回から則本昂大にスパッと代えるなど、柔軟かつ大胆な短期決戦型采配で悲願の日本一を達成している。“北京の教訓”が生かされた結果と言えるだろう。

 東京五輪は、日本、米国、韓国の3強が中心のメダル争いが予想されるが、7月28日の予選リーグ初戦で対戦するドミニカも、MLBのFA組を中心に強力なメンバーが揃い、侮れない。

 何が起きるかわからない短期決戦。稲葉ジャパンは13年前の屈辱を晴らすことができるだろうか。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年7月22日掲載

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