永野芽郁のリアルな描写が好評「ハコヅメ」 「元女性警察官」作家はどう見たか

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 7月にドラマ版がスタートした漫画『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(ドラマ版のタイトルは「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」)の売りの一つは、警察官、それもよく見かける制服姿のお巡りさんたちの日常勤務の描写だろう。

 殺人や強盗など派手な事件がなくても、警察官たちが日々、激務に追われている様は、普通の警察小説やドラマを見慣れた目には新鮮だ。原作では女性的な魅力ゼロ、男性との交際経験ナシという設定の川合巡査役を永野芽郁が演じるのには無理がないか……という懸念を持ったファンもいたことだろうが、そうした心配は無用だったようで、視聴率的には好調なスタートを切り、評判も再現度も含め上々のようだ。ネット上でも概ね高評価が目立つ。

リアルな描写を支える“元警察官”の作者

 漫画版、ドラマ版に共通する魅力の一つであるリアルな描写を支えているのは、作者の泰三子(やすみこ)氏のキャリアなのは間違いない。公開されているプロフィールは以下の通り。

「某県警に10年勤務。2017年、担当編集者の制止も聞かず、公務員の安定を捨て専業漫画家に転身する」

 警察では「最初が交番勤務で、あとは防犯の広報などを担当していました」(「現代ビジネス」2018年5月4日)という。この経験があるからこそ、パトロールの警官にとってトイレの我慢が一大事、といった普通のフィクションでは描かれないエピソード満載のコミックになっているのだろう。

 泰氏のようなマンガ家は珍しいが、活字の分野で活躍する元警察官は少なくない。小説をメインのフィールドとしている書き手では『新任巡査』「R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室シリーズ」等で知られる古野まほろ氏、「警視庁情報官シリーズ」などの作品がある濱嘉之(はまよしゆき)氏がよく知られている。

 それ以外にメディアで活躍している元警察官としては、テレビのコメンテーターがお馴染みの存在だ。最近では、元埼玉県警の佐々木成三氏がイケメンということも手伝ってか、情報番組などによく出演している。その前の世代ならば飛松五男、田宮榮一、北芝健、黒木昭雄……これらの名前ですぐに顔が浮かぶならば、なかなかの警察好きといってもいいかもしれない。

 ただ、ここまででおわかりのように、メディアで活躍しているほとんどの「元警察官」が男性だ。これは仕方のないところで、そもそも警察組織では女性の数が少ない。近年は積極的に女性警察官を採用しており、「毎年度千人を超える女性警察官を採用し、女性警察官数は年々増加している。令和元年度には1,609人(新規採用者総数に占める比率は18.5%)の女性警察官が採用された」(「警察白書」令和2年版)というが、それでも全体の10.2%に過ぎないのだ。

 女性警察官が少ない以上、必然的に「元女性警察官」も少なくなるので、その意味でも泰氏は貴重な存在だと言えるだろう。

「女性初の白バイ隊員」の小説家

 小説の世界に目を向ければ、「女副署長」シリーズなどの著作がある松嶋智左氏が「元警察官」で「女性初の白バイ隊員」という経歴の持ち主だ。

 元警察官のキャリアは、創作活動にどう活きるのだろう。松嶋氏はこう語る。

「階級や制度などは取材でもわかると思うのですが、『空気』のようなものは働いていた者でないとわからないかも、とは思います。

 所轄署内の空気とか、各課の組織系統や仕事内容の違い、上司と部下の距離感から机の配置まで、そこに漂っている雰囲気……執筆していると、あの警察官は家族問題で悩んでいたなとか、言葉を交わした刑事さんの姿などが蘇ってきます。そのへんは『女副署長』などを書く際にとても役立っていますね。

 警察官になると、現場で先輩から組織のありようや立場の違い、その中での動き方など徹底して指導していただきました。

 休日になれば制服からは解放されますが、じつは制服を着ていなくても、一般の人と新しい人間関係を結ぶのが難しいという面があります。要するに、相手がどういう人物かわからないですから。こうなってくると、どうしても同期が一番心を許せるし、人間関係は内向きになってしまいますね。

 同期のうち、女性は38人でしたけど、女性が少ないのは、警察官が危険な仕事だからでしょう。結婚を機に退職する人が多かったと思います」

 ちなみにドラマ「ハコヅメ」についての感想を聞いてみると――

「見てます! 私はハコ(交番)は経験してないのですが、泊まり明けの会話とか、いかにもありそうですし、寮ならではの会話が女子会みたいで、笑いながら楽しんでます。

 主人公たちは制服を着ていますが、警察官にとって『制服の力』はとても強いんです。制服を着ていたら、何があっても絶対に逃げるわけにいかないというプレッシャーがあります。お巡りさんが逃げちゃいけないですからね。一見、皆さんには呑気そうに見えるお巡りさんも、常にそういうプレッシャーにさらされている、ということを知っていただければいいなあと思います」

デイリー新潮編集部

2021年7月22日掲載

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