【東京五輪】女子ソフトボール日本代表 メンバー発表で誰もが驚きと戸惑いの声を上げた理由
いよいよ始まる東京五輪。大半の試合は無観客で行われる、前代未聞の大会を如何に楽しむべきか。スポーツライターの小林信也氏が競技の見どころや試合結果を踏まえ、随時レポートする。第1回は女子ソフトボール日本代表の常識破りの選手選抜について――。
***
開会式に先立って真っ先に始まるのが女子ソフトボール。プレーボールは7月21日(水)午前9時、福島県営あづま球場が舞台だ。
2008年北京五輪で念願の金メダルを獲得した日本代表は、「連覇」を目指している。エース上野由岐子投手が2日間で413球を投げ抜く熱投で見る者を熱く震わせた。あれから13年、この間、女子ソフトボールはオリンピックから除外されていた。北京五輪では大会を通じて最も日本中を感動させた種目のひとつだった女子ソフトボールは、金メダルを獲った直後から「冷や飯を食わされた」格好だった。日本のメディアは、「五輪種目かどうか」で報道の扱いを決める。女子ソフトボール日本代表にも同じ仕打ちを与えた。4年後(2012年)の世界選手権、日本はまた上野の連戦連投で優勝を勝ち取った。北京の再現といってもいい大活躍だったが、この結果は新聞の片隅で小さく報じられたに過ぎなかった。
理不尽だが、それが日本のスポーツ報道の現実だ。結果として、女子ソフトボールは注目を失い、競技を志すジュニアが次第に減少する。オリンピックで華やかな活躍をし、注目を浴びる女子サッカーや卓球、バドミントンといった競技に子どもたちの眼が向いてしまうのは悲しいけれど、現実なのだ。だからこそ、再びオリンピックの舞台に立つ選手たちの決意と覚悟は単なる金メダル以上に、愛する競技をもっと多くの人たちに愛してほしい、競技を目指してほしい、大げさに言えば、女子ソフトボールの存亡をかけたくらいの勝負なのだ。まして、次のパリ大会ではもう除外が決定している。また冷や飯を食う。だからこそ、このチャンスを逃すわけにいかない。
金メダルまで6試合。投手3人で大丈夫なのか?
今年3月、宇津木麗華ヘッドコーチがオリンピック代表メンバーを発表したとき、そのリストを目にした誰もが驚きと戸惑いの声を上げた。
合計15人。これまでは投手4人、捕手2人が常道だったが、リストには投手3人の名しかなかった。一方、捕手も3人が選ばれた。ほかに、内野手が5人、外野手が4人。
投手は、22日に39歳になる上野由岐子、30歳の藤田倭(やまと)、20歳の後藤希友(みゆ)。藤田は20日、メキシコとの練習試合に先発し、「8失点」との、気になるニュースが入ってきた。後藤だけが左腕投手だ。後藤が選出に際して、「監督からはワンポイント(での起用)と言われたので、任されたイニングをしっかり0点に抑えられるように頑張っていきたい」とコメントしている。その言葉から察すれば、先発は、上野と藤田の2本柱が想定されている。宇津木妙子元監督に訊くと、「上野は投球術に一段と磨きがかかっている」というから期待もふくらむ。一方、ここ数年は国内外の試合で打ち込まれる場面も少なくない。「上野は1点も取られない」という神話は崩れつつある。2年前、打球を顔に受けて骨折し戦列を離れたのはアクシデントだとしても、短期決戦でケガや不調があれば、取返しがつかない。
上野の後継者的存在の藤田は堅実な投球を見せてくれるだろうが、実は打者としての魅力が大きい。「ソフトボールの大谷翔平」の異名を取るとおり、打撃のセンスが抜群だ。ボールを迎えに行こうとせず、来たボールをスパッと処理する感覚も大谷に通じる。私自身は投手として負担を与えすぎず、藤田の打棒を存分に発揮してほしいと願っているから、藤田が投手の主軸を担う形は避けたいと思う。
そうなると、「ワンポイントと言われた」という20歳の後藤が、実が金メダルの命運を握る存在ではないのか? 宇津木ヘッドコーチは後藤に余計なプレッシャーを与えないため、そのように言ったが、展開次第では後藤の大車輪の活躍をひそかに期待しているのではないかとさえ感じる。もし、予選のどこかで後藤が快投を演じ、上野のお株を奪うような存在にのし上がったら、日本の未来は明るくなる。
[1/2ページ]