「KINCHO」の新聞広告、担当者は「必要とされない広告を話題にしてもらうために」
金鳥の夏、日本の夏――。梅雨の晴れ間から灼(や)けつく陽射しが降り注げば、こんなキャッチコピーが頭に浮かぶ向きも少なくあるまい。関西ノリの奇抜なCMで知られるKINCHO。今度は新聞広告で本領を発揮し、大反響を呼んでいる。
新聞各紙の朝刊に〈インターネット広告とは大違い! いま、いいよね。一方通行の新聞広告〉という文言が躍ったのは7月4日のこと。このKINCHOの全面広告には、さらに、
〈新聞広告は、あこぎなことしないから安心だよ!〉〈「ポイントやるから個人情報よこせ」なんて言わないよ!〉〈「広告見て買ったな、そしたらもう一回買え」なんて言わないよ!〉
などとネット広告への痛烈な皮肉が綴られる。
「さすがKINCHOという印象です。テレビCMでは長澤まさみにコテコテの関西弁を披露させ、昨年は〈もうどう広告したらいいのかわからないので。〉というコロナ禍ならではの率直過ぎるコピーが話題に。今回もネット広告を茶化しながらオチをつけてます」
広告業界関係者が指摘する“オチ”とは、広告最下段に記載されたURLのこと。ここにアクセスすると〈インターネット大好きキンチョウ〉から壁紙がプレゼントされる仕掛けである。
新聞を持ち上げつつ、ネットでオチをつける。この人を食った広告についてKINCHOの広報担当者は、
「テレビの視聴者や新聞の読者にすれば、広告なんて誰も積極的に見たくないと思うんです。必要とされない広告を話題にしてもらい、KINCHOブランドを好きになるきっかけになればと考えています」
芸風を受け継ぐ
実際、SNS上ではバズりまくり、広告を載せた中日新聞は〈KINCHOさんには感謝しかありません!〉とツイート。ここまで計算していたならさすがだが、
「正直なところ、社内外からの評判は耳にしません。私の家人に広告の出来を尋ねても“またこんなことやってんのね”と言うばかり。取材依頼も新潮さん1社だけですから……」(同)
本社が大阪なだけに、“芸”への評価には厳しいようだ。一方で、メディア文化評論家の碓井広義氏は、
「リモートワークが浸透し、世間ではネット広告を目にする機会が倍増しています。そうした時流を踏まえた上で、消費者がネット広告の戦略にからめとられている実態に気づかせてくれた。ネット広告に誘導してオチをつけるひねり方も秀逸。“炎上”も辞さない手法ながら、“この広告に文句をつける人はユーモアを分かってないよね”と思わせるあたりは見事です。“ハエハエカカカ”や“タンスにゴン”など、かつてKINCHOのCMを数多く手がけた電通関西支社の堀井博次さんにインタビューしたのですが、その真骨頂は同調圧力に言葉の力で一矢報いるところ。今回の新聞広告も“芸風”が受け継がれていると思います」