東京藝大で聞いてみた 求人誌いらずのアルバイト事情 割れたスマホも自分で直せる

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 累計40万部を突破した『最後の秘境 東京藝大』は、社会現象にもなった前人未到、抱腹絶倒の探検記。口笛で合格した世界チャンプがいるかと思えば、ブラジャーを仮面に、ハートのニップレス姿で究極の美を追究する者あり。全学科の現役学生に取材した著者の二宮敦人さんに、本には書ききれなかった逸話を聞いてみた。

「家屋修復」と「聖歌隊」

 コンビニ、喫茶店、レストランなど、イメージしやすいアルバイトをしている藝大生も多い。大学生らしいのは家庭教師や予備校の講師だが、藝大生の場合はもちろん音楽や美術のレッスンだ。自分の技能を活かしているわけである。

 そして中には、さらに変わった技術の使い方も……。

「家屋修復のバイトが、彫刻科に代々受け継がれているそうです」
と二宮さんが言う。

「家って新築でも、どうしても作業中に小さな傷がついちゃうらしいんですね。それを、お客さんに引き渡す前に綺麗に修復する仕事。パテで傷を埋めたり、同じ色の絵の具で塗ったりして、ピカピカの状態に戻すんですって。手先の器用な藝大生ならではです」

 自宅についた傷も、このバイト経験者なら簡単に直せるそうだ。なんとも便利な技能である。

「それから、ブライダルの聖歌隊。これは声楽科の学生さんのアルバイトです」

 声楽科、あるいはハープやピアノ、ヴァイオリンの専攻では、ブライダルでの演奏が事務所経由で依頼されるそうだ。日によっては、1日に6回もかけもちすることがあるという。長続きするのが難しいバイト、ということだが……。

「疲れるというより、何だか麻痺してきて、ありがたみがなくなってくるそうですよ。毎回、『あなたたちのためだけに、今日は演奏します!』という顔で弾かないとならないそうですからね……それが嫌になって、やめてしまったという方もいました」

 作曲家の学生のもとにはメドレー編曲の依頼が舞い込むこともあるそうだ。みな、それぞれの技を活かして働いている。

 知識を活かした仕事もある。音校(音楽学部)の楽理科で学ぶ学生は専門を活かして、コンサートのプログラムに解説文を書くそうだ。同じように、美校(美術学部)の芸術学科で学ぶ学生は古美術商の発行するカタログに新しい商品についての解説を書く。

割れたスマートフォンを直す

 また、同じ古美術商でのアルバイトでも、工芸科の学生だと今度は修理が専門になってくる。
 
「古い製品を修復しようとしても、ネジとか、部品とか、もうどこにも売っていないし、手に入らないわけですよ。どうするかというと、自分で作るそうです。材料さえあればさらっと自作できてしまうのが、さすが工芸科という感じです」

 同じ工芸科でも、漆芸専攻の学生は、「金継ぎ」のアルバイトをしていた。割れてしまった器などを、漆を使って繋ぎ合わせるのだ。器に金色のヒビが走っているようで、味わい深いものになる。割れてしまったスマートフォンも金継ぎできてしまうとか。

 いかにも美校という感じのアルバイトが彫像や肖像画の制作だ。

「彫像は一つ作って材料費込20万、くらいだそうです。税理士事務所からの依頼だったとか……」

 そうした依頼はまずは藝大に持ち込まれ、アルバイト情報として掲示される。学生はそれを見て、連絡をいれるそうだ。

コミカライズ作品

ネット書店で購入する

「あとは、画廊やギャラリーのバイトもたくさんあるそうです。倉庫スタッフのアルバイトをしている方がいました。美術品を運んだり、陳列したりする肉体労働で、重いものも運ぶので、まるで引っ越し屋のような仕事だそうです。でも陳列時にはライトの位置を決めたりもするので、展示作業のイロハが学べると言っていました。勉強の一環なのかもしれませんね」

 同じギャラリーでのバイトでも、大変なものもあれば楽なものもあるそう。

「受付の仕事は、本当に暇だそうです。ただ座ってるだけで、たまに話しかけてくるおばあちゃんと会話するくらいで……学生の中でも人気のようですよ!」

 楽なバイトは、期間限定とのこと。藝大生は専攻も多様なら、バイトも十人十色である。

デイリー新潮編集部

2021年7月20日掲載

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