強盗強制性交でも実名発表されない犯人 「精神疾患による通院」で匿名にすることの是非

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 悪辣というほかない犯罪である。捕まったのは42歳の男。被害者は20代の女性。

 警視庁詰め記者が言う。

「都内狛江市在住の男は6月24日、アパートで独り暮らしをする20代女性の部屋に押し入って性的暴行を加え、下着を奪って逃走したとされます。住居侵入と強盗強制性交の容疑で捜査1課に逮捕されたのですが……」

 その侵入の手口が狡猾で、

「自治体職員を装い、“新型コロナワクチン接種の説明です”などと言って女性宅を訪れていたんです」

 ところが、だ。事件を報じた6月28~29日付の朝日、読売、産経、どの紙面にも男の実名は登場しない。

「警察が“氏名=A男”と発表したからです」(同)

 なんでも、男は「証拠はあるのか」と容疑を否認しながら意味不明な言動をし、家族の話では精神疾患による通院歴もあるという。つまり刑事責任能力に疑いがあり、人権上、実名の公表を控えた、といういつもの理屈なわけである。

 しかしこの男、自治体職員を装ったり、用意してきたはさみで女性を脅したり、逃げる際に女性を縛ったりと用意周到ぶりが窺える。ひとまず十分、刑事責任を問えそうではないか。

「事件がテレビで報道された時に、これだけの犯罪で緻密な計画に基づいていると思われるにもかかわらず、犯人の名前が伏せられていることに、最初は私も首をかしげましたね」

 と、元警視庁刑事で防犯コンサルタントの吉川祐二氏は語る。

「とはいえ、私が現役の頃も、精神疾患の疑いがある者が容疑者の場合には捜査に慎重を期していました。容疑者の受け答えがおかしいというケースは結構多く、“普通ではない”と判断すれば、発表で名前を伏せることも。今回は精神疾患による通院歴もあるといい、結果的に罪に問えない可能性がある以上、現段階で名前を公表しないのは致し方ないことなのでしょう」

 さはさりながら、かくて名前を“伏せてもらえる”なら、酒に酔って見も知らぬ女性に抱き着いて捕まった男や、怖い兄貴分の言いなりで特殊詐欺の受け子をつとめた若造ら猪口才(ちょこざい)な犯罪者たちが「こっちは実名報道で社会的制裁を受けているのに不公平だ」なんて、権利を主張し始めかねない。

 精神疾患の患者数は増加中で、入院通院含めると2017年には約419万人。15年前の1・6倍だ。逮捕したら通院歴アリで匿名に――。今後は“誰かもわからぬ加害者”ばかりになるか。

週刊新潮 2021年7月15日号掲載

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