友達感覚で営業電話をかけてくるオジサンが面白すぎる 卓越した電話技術に感心(中川淳一郎)

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 最近気になって仕方がない男性が一人います。某通販会社の営業マン・A氏なのですが、この人が面白くて仕方がないんですよ。2020年6月に新聞広告を見て同社が発売する鰻の蒲焼を買ったのですが、先日営業電話を掛けてきました。

「中川さん! 去年、鰻を買(こ)うてくださってありがとうございました! でね、また鰻、入ったんよ! しかも、10%引き。今だけ! 安いよ! また買いませんか?」

 コテコテの関西弁でこうまくしたてるのですが、私のような佐賀県唐津市在住者からすれば、A氏が売る鰻よりも恐らく質が高いであろう鰻を安く買える状況にあります。だから「私、今はね、九州にいるのでおいしい鰻が安く買えるんですよ」と言ったらA氏は引き下がらない。

「ならね、ビーフはどう? あのね、シャトーブリアンというね、牛一頭からほんの僅かしか取れない高級部位を売ってるの! 1.6キロセットを今なら1万1千円! どう?」

 私自身、シャトーブリアンの稀少性は知っているので、確かにその価格なら安いな、と思い、買うことにしました。しかし、こんななれなれしい営業電話なんてA氏以外に経験したことはありません。恐らく同氏は50代後半ではないでしょうか。

 一体どのようなキャリアを経て今の通販営業の仕事に就いたのかは分かりませんが、同氏のまくしたてるような喋り方に私はすっかり魅了されてしまったのです。

 妻が、A氏と喋る私が電話を終えたところ「誰?」と聞きました。「シャトーブリアンを売る営業のオッサン」と答えたら「えぇ? 友達かと思った!」と言います。そうです、このオッサン、完全に私と友達のように電話で喋るのです。

 以後、このオッサンから電話が来るのが少し楽しみになってしまった私がおります。ちょうどこのシャトーブリアンが届いた数日後、2枚を焼き、0.5枚分は翌日の午後の酒のつまみとして冷蔵庫に入れておきました。

 その0.5枚をフライパンで温めていたところへ、再びA氏からの電話が。

「中川さん! 元気!? この前のシャトーブリアンおいしかった?」

 と言う。私が「はい、おいしかったです。そして今、丁度焼いているところです。桃屋のきざみにんにくと一緒に焼いて醤油掛けたら絶品ですね! 今からビールと一緒に食べます!」と答えたら、A氏は「それは良かったです。ワシ、なんつー良いタイミングで電話したの! 中川さんが喜んでくれて嬉しいです!」と言う。

 そして畳みかけるように「あのね、鰻がね、いいの入ってるの!」と。私は苦笑しながら「Aさん、鰻はいらんってこの前言ったでしょ? そしてステーキがたくさんあるからまだ大丈夫よ(笑)」と答える。するとA氏は「あぁぁぁ! それは失礼しました! また電話します!」と言う。

 昨今「電話はウザい」「電話は他人様の時間を奪う暴力的ツール」「電話をかけるヤツは無能」など散々な評判の電話。そんな風潮があります。しかも、A氏の場合は営業電話というもっともウザいはずの電話です。それなのになぜか同氏からの電話を楽しみにしてしまう状況にある。同氏の電話技術、すさまじく卓越しています。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年7月15日号掲載

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