文在寅が菅首相をストーカーするのはなぜか 「北京五輪説」「米国圧力説」……やはり「監獄回避説」が有力
文在寅(ムン・ジェイン)大統領がこれほど日韓首脳会談に執着するのはなぜか――。根本的な疑問を韓国観察者の鈴置高史氏が読み解く。
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「訪日は弱腰」と高まる批判
――果たして、文在寅大統領は日本に来るのでしょうか。
鈴置:7月16日午前の段階で、日韓両国政府いずれも文在寅大統領の訪日に関し何の公式発表もしていません。東京五輪の開会式は7月23日。名分は開会式への参加ですから、もし訪日するのなら1週間前になっても正式発表がない、という異例の事態です。
韓国側は「訪日する以上は、菅義偉首相と正式の首脳会談を開きたい」と要求。一方、日本側は「挨拶程度の簡単な会談にしたい」と応え、決着がついていないのです。
――文在寅大統領はなぜ、菅首相との正式な会談開催にこだわるのでしょうか。
鈴置:実は、その理由は韓国でもきちんと説明されていません。韓国各紙は「韓日関係を改善するため」と一応は書きます。でも、それを素直に信じる韓国人は少ない。
文在寅政権は「反日」がウリです。日本を貶めることで人気を集めてきたのに、突然「日本との関係が大事」と宗旨替えすれば、つじつまが合わなくなります。
宗旨替えは慰安婦問題などで今年初めから明白になりましたが、保守派は「我々を親日派と決め付けておいて、この政権こそ親日ではないか」との批判を強めています。支持層の左派からも「日本に弱腰だ」と反発が出ています。
ことに、東京五輪・パラリンピック組織委員会のホームページの日本地図に竹島が載っていることを理由に、韓国の有力政治家が「ボイコットすべきだ」と主張している最中です。
リアルメーターの6月25日の世論調査によれば、国民の60・2%が「大統領は東京五輪に合わせた訪日をすべきでない」と考えています。「訪日すべきだ」は33・2%に過ぎません。首脳会談どころか、「東京五輪に行くな」との声の方が強いのです。
日韓会談は米国が仕掛ける?
一部の韓国紙が「北京五輪説」を唱えたこともあります。文在寅大統領は2022年2月の北京五輪開会式に参加して中国にゴマをすりたい。でも、北京にだけ行くと米国から「親中派」と見なされるので、バランスをとって東京五輪にも行っておくのだ――との説明です。
ただ、この分析にも無理があります。北京五論に行くためにバランスをとるというなら、東京五輪の開会式にだけ参加すればよい。だのに文在寅大統領は日韓首脳会談まで日本に要求しているのです。
それに来年5月には大統領の任期は終わります。北京五輪だけに参加して米国に睨まれようが、政権運営には関係ないのです。
「米国からの圧力説」もあります。確かに、5月21日の米韓首脳会談でバイデン(Joe Biden)大統領は文在寅大統領に対し、日本との関係改善を求めました。
しかし、米政府が日本政府に対し「日韓首脳会談を開いてやれ」と言っているフシはありません。日本語のネット空間で時々「日本が首脳会談を拒否すると、米国から怒られるぞ」との主張が登場します。が、ネタ元をたどると、だいたい韓国に行きつきます。
バイデン政権も日韓関係の悪化の原因が文在寅政権にあることはよく分かっている。文在寅大統領が事実上、破棄した日韓慰安婦合意の保証人を、副大統領時代のバイデン氏が務めたからです(「かつて韓国の嘘を暴いたバイデン 『恐中病と不実』を思い出すか」参照)。
その証拠に、4月16日の日米首脳会談で米国は日本には「韓国との関係改善」をことさら求めませんでした。日米両国政府は「韓国が変わらない限り、日韓首脳会談をいくら開いても無駄」との共通認識を持っているのです。
もちろん、文在寅政権が北朝鮮や中国の言いなりにならないよう、バイデン政権はクギを刺しはします(「文在寅が“大敗北”の米韓首脳会談 ワクチン対象は軍人だけ、声明には『台湾』『北の人権』」参照)。
しかし、「文在寅政権がこちら側に戻るのを期待しても無駄。来年3月の大統領選挙で再び反米左翼政権が選ばれないようにする方が肝心」との空気が米国の外交専門家の間には濃いのです(「面従腹背の文在寅 ソウルに戻ると即、金正恩に“詫び状” 米国でも始まった『嫌韓』」参照)。
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