“ぼったくり男爵”、IOCバッハ会長がどうしても広島へ行きたかったワケ
任期は2025年8月まで
ワシントン・ポスト紙のコラムで“ぼったくり男爵”とあだ名され、東京五輪をめぐっては本心からなのか単にウッカリなのか、日本人の感情を逆なでし続けるような言動を繰り返す国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長。来日後の隔離期間を終え、五輪開幕に向けて始動し始めた。16日には念願の広島入りを予定し、迎える広島市側も相当なVIP待遇で迎えるという。
ワシントン・ポスト紙のコラムでは、バッハ会長を“ぼったくり男爵”、他のメンバーを“金メッキの偽善者たち”と呼び、「東京オリ・パラ開催の原動力はカネだ」と揶揄している。“ぼったくり男爵”というありがたくないニックネームの原語は、「Baron Von Ripper-off」。「Baron」は男爵の意で、「von(フォン)」はドイツ語圏で王侯貴族の呼称である。実際のバッハ会長はやんごとなき階級の出ではないのだが、五輪貴族としばしば言われるように、搾取する側の論理の代弁者ということで皮肉っているわけだ。
バッハ会長は1953年、旧西ドイツ生まれの67歳。1976年、モントリオール五輪のフェンシング男子フルーレ団体で金メダルを獲得するなどフェンシング選手として活躍した後、弁護士となって大手企業の顧問などを務め、91年にIOC委員に就任した。副会長などを経て、東京五輪開催が決まった13年9月の総会で第9代会長に選ばれた。今年3月の総会で再選され、2期目は2025年8月までの4年間となる。
五輪はやってもらわないと困る
取材する記者によると、
「バッハ会長はIOC内で権力基盤を強固にし、盤石な状態で2期目に入ります。16年リオ五輪では初めて『難民選手団』を結成したり、18年平昌冬季五輪では北朝鮮に特別参加を認め、アイスホッケー女子で五輪初となる韓国と北朝鮮の南北合同チームを実現させたりするなど、最初は見せなかった政治的なスタンスを徐々に見せ始めました。大会後には北朝鮮を訪問し、金正恩朝鮮労働党委員長と会談もしています」
IOCは五輪という平和の祭典をつかさどる団体なのだから、トップである会長は平和の使者だと言わんばかりの行動力と言えるだろうか。
そして今回、五輪を直前にして日本へやってきたわけだが、そもそも5月に予定されていた来日は見送られていた。
「4月の会見で、東京都に3度目の緊急事態宣言が出されることについて、五輪とは関係がないと発言して、日本の世論の猛反発を受けたことが大きかったと聞いています。その後も、日本国内で五輪中止論がくすぶり続けたため、訪日スケジュールがギリギリになってしまいました。IOCのトップが開催直前になっても現地に入らないというのは異例のことです」
コロナ禍が深刻化する中でも、五輪を主催するIOCは「中止はしない」と明言してきた。止められないのはIOCの収入のざっと7割を放送権料が占めているからだ。アメリカの放送大手NBCユニバーサルとは2014年ソチ冬季五輪から32年夏季五輪(開催地未定)まで総額約1兆3000億円の契約を結ぶ。もちろん保険に加入してはいるが、それでは到底賄えない額だ。
乱暴な言い方になるが、五輪延期は許容できるし、観客を入れるか入れないかはどうでもいいが、やってもらわないと困るというのが本音なのだろう。
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