コロナの「重症者・死亡者」は減少している事実 8月末にはワクチン接種も5割弱が完了
ワクチン効果で重症者数も死者数も減り、医療が逼迫しなくなった。ようやく自粛要請も緩むかと思いきや、感染者数が増えているからと、五輪は無観客だ、再び緊急事態宣言だ、という声が沸き起こる。もはや不思議の国だが、コロナの出口は確実に近づいている。
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専門家によると、すでに1都3県は、新型コロナウイルス感染の「第5波」の入り口にあるという。だから、間近に迫った東京五輪についても、無観客での開催が検討され、しかも、五輪開幕直前の緊急事態宣言も避けられなかった。
たしかに、9都道府県に出されていた緊急事態宣言が、6月20日に解除されて以降、感染者数は増えつつある。しかし、この期に及んで感染者数だけを見て騒いでいることに、違和感を覚えないだろうか。
というのも、これまで緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は、医療逼迫、ひいては、医療崩壊を防ぐためのものだった。事実、重症者が増えて病床が逼迫し、救える命が救えなくなるのを避けるための措置だ、と何度も聞かされた。むろん医療逼迫は避けねばなるまいが、逆に言えば、医療が逼迫しないなら感染者が多少増えても、騒ぐ必要はないはずではないのか。
事実、以前は感染者数が増えれば、それに比例して重症者数も、少し遅れて増加した。たとえば第3波では、東京都の新規感染者数が初めて800人に達した昨年12月17日、重症者数は66人だったが、2度目の緊急事態宣言が出された今年1月8日、新規感染者数が2392人、重症者数は129人に増加。1月20日には、感染者数は1274人に減ったが、重症者数は160人に達した。
同じ日の数字を全国で見ても、12月17日は新規感染者数3209人に対して重症者が609人。それが1月8日、7957人と827人になり、1月20日には、感染者数は5562人に減ったが、重症者数は1014人に達していた。
第4波も同様で、3度目の緊急事態宣言が出されると決まった4月23日、東京都の新規感染者数は759人で重症者数が52人だったのが、5月12日には、969人と86人に増加。全国を見ても4月23日は、それぞれ5107人と837人だったのが、5月12日には、7049人と1214人に増加。その後、全国の重症者数は5月25日、1413人にまで増えている。
だが6月以降、重症者数は減り続け、新規感染者数が多少増えても、重症者数に影響を与えなくなっている。6月20日、東京都の新規感染者数は376人で重症者数は45人だった。それが7月4日は、感染者数が518人に対し、重症者数は51人。全国で見ると、6月20日が1307人と721人だったのが、7月1日は1753人と511人。ちなみに、東京都が確保している重症者病床は373なので、病床使用率は13%余りにすぎない。
専門家やテレビのワイドショーは、都内の新規感染者数が、人口10万人当たり25人を超え、「ステージ4に達した」と大騒ぎしているが、現実には医療崩壊はおろか、医療逼迫とも遠い状況なのである。
東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長の川口浩氏も違和感を隠さない。
「第1波から第4波までの感染者と、現在の感染者をくらべると、世代に明らかなギャップがあります。以前は高齢者が多かったのに対し、いまは若い世代が感染者の半数を占めています。おそらく変異株のせいだと思いますが、若年層の感染者増が、必ずしも重症者数の増加につながっているわけではありません。それはデータを見ても明らかですし、加えて最近は、メディアでも医療逼迫について議論されなくなってきています。感染者数だけを見て新型コロナの影響を測る、という状況ではなくなっているように思います」
五輪のころに状況は一変
いま感染者数が増えているのは、主にデルタ株によると思われるが、それについて川口氏が続ける。
「現在、アルファ株がデルタ株に置き換わっているイギリスでは、同時にワクチン接種も順調に進んでいます。デルタ株が流行して以来、感染者数はワクチン接種率と、必ずしも相関しなくなってきていますが、重症者数とワクチン接種率は非常によく相関しています。すでに証明されているように、mRNAワクチンはデルタ株にも効果があり、感染者数が増えても、ワクチンによって重症者数が抑えられているのです。感染者の増加が医療逼迫につながっていないため、ジョンソン首相もロックダウン等の措置をとらず、サッカーのEURO2020のようなスポーツ大会をやっているのだと思います」
しかも、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催された7月6日、7日の準決勝、11日の決勝は、1試合6万人の観客が入場した。同時に開催されていたテニスのウィンブルドン選手権も、6日の女子シングルス準々決勝から、観客を100%収容したのだ。
ちなみにイギリスでは、7月4日の新規感染者数は2万3838人で、死者数は15人。同日、人口が約2倍の日本では、新規感染者数が1414人で、5月18日には216人を記録した死者数は、5人にまで減っていた。それでも五輪を無観客にしなければ、日本が滅びかねないほどの騒ぎである。東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が言う。
「イギリスではデルタ株によって、日々感染者が増えていますが、死者数は増えず、6月にはゼロという日もあってニュースになりました。イギリス政府も、規制をほぼ全面的に解除する方針を示しましたが、それはワクチンの存在があるからです」
イギリスでは、成人の8割が1回目の接種を終えているというが、
「日本も同様で、ワクチンを1回打てば、感染は防げなくても死者数は抑えられる。2回打てば相当な効果が見込まれます。現在、高齢者は少なくとも1回打った人が65%。7月中には7割、8割と増えていくでしょう。日本では感染の波が、これまで4カ月に1回訪れているので、次は8月ごろに、また感染者が増えるはずです。ただ、いままでと状況が異なり、高齢者の多くはワクチンを打っているので守られる。あと2週間もすれば、感染者数は右肩上がりになっても、重症者数や死者数は右肩下がりになるはずです。五輪開会式のころには、状況は一変してくるでしょう」
それなのに、
「いまさら方針を変えられないからか、専門家は感染者数の話しかしません。これまでは感染者数が増えれば、重症者が増える傾向もありましたが、もはや感染者数で大騒ぎしても仕方ない。感染者数削減至上主義のままでは、経済へのダメージから、五輪に観客を入れられないことまで、マイナス面ばかり大きくなってしまいます」
守るべき人は守られていても、アスリートの力に直結する応援を排除するのは、あまりに過剰な警戒ではないのか。ロンドンのように、とは言わないが、感染者数がロンドンよりはるかに少ない東京で、国立競技場の観客席を無人にすれば、世界の失笑を買いかねない。
ここでデルタ株について、少し掘り下げてみたい。近刊『コロナワクチン、打ちますか』(ビジネス社)の著者でもある、東京大学ゲノムAI生命倫理研究コア総括の伊東乾氏が説明する。
「新型コロナが体内に入ると、一人の体の中だけでも無数の複製ミス、つまり変異が生じます。ただ、症状が顕著に表れるほど強い力をもった変異は稀で、生存競争に残った新顔が、代表的な変異株として登場します。インドで猛威をふるったデルタ株は感染力が強く、スパイクタンパクの遺伝子に3カ所の特徴的な変異が見られ、細胞に侵入しやすくなったと考えられます」
武漢で感染爆発したオリジナルとは、別の病気と思ったほうがいいという。
「まず症状が違う。従来型の患者には味覚や嗅覚の障害が認められますが、デルタ株の感染者にそれらは見られず、咳も少ない。頭痛や鼻水から始まる点では通常のインフルエンザに近いかもしれません。治療の効果もあるのでしょうが、肺炎の症状が30分で一気に重症化する、といったケースも少ないようです。このデルタ株にK417Nという変異が加わったデルタプラス株にも同様の傾向が見られます。双方ともにワクチン接種が有効と思われますが、イギリスではまだ国民の約半数が、2回目の接種を完了していない。若者など未接種層にデルタ株が強い勢いで感染拡大していると考えられます」
ワクチン効果に加え、一気に重症化することがないなら、自宅療養中の急死も防げるのではないか。
ところで、日本では現在、ワクチンを少なくとも1回接種した人が、総人口の25%に達している。各地で接種の延期等が生じ、不安な向きも多いと思われるが、
「現時点で、すべての自治体の住民台帳に登録されている人数×2回分のワクチンは、すでに発送ずみです。届いているかはわかりませんが、発送はしています」
と、厚生労働省健康局健康課予防接種室。混乱はあっても、1日100万回のペースで接種は進んでいる。東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授が言う。
「いまのペースで接種が進めば、8月末ごろには全国民の5割弱くらいが接種を終えると期待され、それ以降、感染者数も減少に向かうことは考えられます」
そのうえで、さらに次のような見解を示す。
秋にかけて収束に向かう
「ワクチンと変異株という要因が加わったいまは、感染者数だけでなく、感染者の年齢構成、デルタ株の割合、入院患者数、病床利用率、療養者数、療養が必要な人に占める入院率、そして重症者数、死亡者数などを、総合的に判断する必要性が増していると思います。特にワクチン効果で重症化を抑えられつつあるいまは、以前と状況が違うので、感染者数ばかりにとらわれるのはよくありません」
季節性インフルエンザの場合、厚労省の人口動態調査によると、2019年にインフルエンザが原因とされる死者は3575人だった。むろん高齢者が多いとはいえ、20歳未満も104人を数える。一方、新型コロナは感染が拡大しはじめた初期のころから、重症化し、死亡する人の大半は高齢者で、厚労省によれば20歳未満の死者は、いまだ一人もいない。寺嶋教授も、
「インフルエンザの場合、小さいお子さんと高齢者が重症化しやすい傾向もありましたが、新型コロナの場合は、高齢者だけリスクが高いのが特徴です」
と話す。繰り返すが、高齢者は守られつつあるのである。その状況で感染者数に一喜一憂するのは、ナンセンス極まりない。
前出の川口氏は、
「デルタ株については、たとえ若い人が感染しても重症化するというエビデンスもありません。だから、さらなる変異株が登場することなく、このままデルタ株にとどまってくれれば、ワクチンがゲームチェンジャーとなって、秋にかけて収束に向かうと思います」
という見通しを示したうえで、こう訴える。
「そのためにはワクチン一本やりでなく、治療薬との合わせ技が大切になります。今後は感染した人が発症しないための薬、軽症の人が重症化しないための薬、重症の人が死なないようにする薬、というように、フェーズ別の治療薬を開発する段階に入ると思います」
治療薬といえば、本誌(「週刊新潮」)がたびたび取り上げてきたイベルメクチンの臨床試験を、興和が行うという。製造元の米メルク社が、新型コロナ向けの治験に消極的だっただけに、興和が名乗りを上げたのは朗報である。
「詳細は今後、規制当局である医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談して決めることになります」(興和の担当者)
現時点の予定では、軽症者800~千人を対象とした治験を行い、年内には薬事承認に向けた申請をしたいようである。
五輪を控えての、この空騒ぎを前にしていると気づきにくいが、コロナの出口は確実に近づいている。