「ひきこもり先生」子供の心の叫びを傾聴する佐藤二朗の安心感 全10話で見たかった
一時期、身内にひきこもりというか、ネトゲ廃人がいた。昼夜問わず延々とゲームに没頭する姿は異様だった。私は大人のひきこもりには手厳しいほうだ。ただ、ひきこもりの理由も背景も人それぞれ。孤立が一番よくないと思うし、きっかけさえあれば、自分で抜け出す一歩を踏み出せるはず(容易ではないが)。その身内も今は元気に働いている。我が姉のことである。
ただし、これが子供となると自分で抜け出せというのは酷。大人の介入が必須。しかも身内ではなく他人。第三の大人が必要と思わせたのが「ひきこもり先生」だ。
主演は佐藤二朗。教育とは無縁の焼き鳥屋店主だが、ひきこもり11年の経験から、公立中学校に非常勤講師として呼ばれる。呼んだのは校長の高橋克典。不登校もいじめもなくすことで自らの昇進を目論む野心家だ。
一度は断るが、物憂げな少女・鈴木梨央と心を通わせたのを機に、非常勤講師になる決意を固める。未婚の母と暮らす梨央は、自己肯定感を育めずにいた。刹那的に命を断とうとしたとき、偶然二朗に遭遇。説教でも懐柔でもなく、傾聴に徹した二朗の優しさには、私も絶大な安心感を覚えた。
不登校の生徒が通いやすいよう設けられた特別教室では、新米教師(佐久間由衣)のサポートに入る二朗。子供たちの心の機微を観察するのは、スクールソーシャルワーカーの鈴木保奈美だ。保奈美は下駄箱の靴をチェックして、子供たちの家庭環境や心境を読み取る。最も頼もしい第三の大人だが、熱意が教師や親、教育現場の構造に阻まれてしまう悔しさを常に抱えている。
不登校の背景は十人十色。両親の不仲と貧困に苦しむ男子(南出凌嘉)、母の過干渉で心を閉ざした女子(住田萌乃)、梨央もいじめに遭って不登校に。二朗は子供たちの心の声に耳を傾けて、少しずつ変化をもたらす。
特に、二朗が子供たちとおにぎりを作るシーンがいい。うん、食は大事よね。象徴的なのは、昼にカップ麺をすすっていた佐久間の存在。おにぎりで子供の心を掴む二朗に、自分の無力感を覚える佐久間。泣きながら巨大おにぎりを頬張り、何も考えず教職を選んだ己を恥じ入る場面。きっといい先生になれると思うのよ。
そもそも二朗は友人に裏切られて借金を背負い、妻子を失い、自責の念でうつ状態に。自分を責め続けている子供の心の叫びには敏感だ。ここに寄り添うことができる大人は少ないよね。
二朗の優しさは、不登校ではない生徒にも向けられる。スクールカーストで転落した男子(二宮慶多)、繰り返されるいじめの根深い問題にも一石を投じていく。
学校モノなのに子供の背景が疎かで大人の欲ばかり描くドラマもあるが、これは子供を主軸に掘り下げているので安心。いや安心してはいけない社会問題なので、良心と矜持を感じたよ。
また大人のひきこもりにも触れる。父親との確執で、自責の念より怒りを増幅しているのが玉置玲央。愛おしさすら覚える熱演だ。複雑な感情の吹き溜まりを繊細に演じる、確かな役者陣。全10話でやってほしかった。