3割の男性が発症するAGAの最新治療法 メカニズム不明の女性型脱毛症の対策は?
推奨される3つの薬
さて、かつての賑やかな頭髪を取り戻したい一心で、人目をしのんで医療機関へと駆け込んだ人もあるだろう。実は、男性ホルモンとともにAGAの発症に関わっているのが「遺伝」である。とはいえ、仮にあなたの頭髪の心細さが遺伝に起因していたとしても、現在ではそれを撥ねのける強力な治療法が普及しているからご安心を──。
先の佐藤院長が解説する。
「AGAの場合、投薬治療が最初の選択肢となります。テストステロンが原因物質であるDHTに変わるのを阻害する効果がある薬として、フィナステリド(商品名・プロペシア)と、2016年に登場したデュタステリド(商品名・ザガーロ)があります。テストステロンをDHTに変える酵素である5αリダクターゼには、髪に関係しないI型と大きく関わるII型とがあり、フィナステリドはII型のみに作用しますが、デュタステリドはI型にも作用します。後者は比較的新しい薬であり、当院では特別の希望がない限りはフィナステリドを処方しています」
前出の乾院長も、
「私のクリニックでは阻害効果の強いデュタステリドを処方することも多いのですが、将来お子さんをお作りになる若年の方にはフィナステリドを使っています。というのもデュタステリドには、効果が強すぎて精子の量を減らしてしまう作用もあるからです」
ちなみにAGA治療は保険適用外となる。
参考までに、先に紹介した日本皮膚科学会のガイドラインでは、AGAに対するこれら2種の内服薬は推奨度「A」(行うよう強く勧める)との評価を受けている。この2種は女性の治療薬には使えないが、ほかに血行促進などの効果がある「ミノキシジル」の外用(塗り薬として使用)も「A」評価で、こちらは男女ともに有効である。
「ミノキシジルは数十年前までは降圧剤として使われていました。血管拡張作用や、髪の成長期を維持・正常化する効果があるとされています」
とは、佐藤院長。
「男性の場合、まずはフィナステリドを処方し、効果が薄ければミノキシジルを併用することになります。フィナステリドは1日1回1ミリグラムの内服で約半年後に効果が出始め、2~3年で髪が安定してきます。また、ミノキシジルは早期に効果が出始めます。私の東京のクリニックでは、フィナステリド1カ月分にあたる1ミリグラム30錠を4950円でお出ししています。デュタステリドは1回0・5ミリグラムで、30カプセル8250円。ミノキシジルについては、男性用の5%外用薬、女性用の2%外用薬ともに60ミリリットルが6千円。これで大体2~3カ月は使っていただけます」
気になる副作用については、
「フィナステリドの場合、メーカーによる943人を対象とした調査では、副作用が0・5%。そのうち性欲減退が0・2%、勃起不全が0・1%でした。合計してもEDの自然発生率より低い数字で、血中半減期も3~4時間ほどなので安全性は高いといえます。一方、デュタステリドは性欲減退が2%ほど、トータルで数%程度の副作用が出たとの調査結果があります。血中半減期は3~4週間と長く、副作用で投与を中止しても薬が抜け切るまでに時間がかかります」(同)
またミノキシジルは、
「1日1回の外用でおよそ8割の人に効果が出ています。蓄積性や依存性のない薬で、血中濃度が上がってから下がるまでの時間も早い。安全性は高いのですが、継続的に使う必要があります」(浜中院長)
iPS細胞を用いるより
むろん、こうしたオーソドックスな治療法とともに最先端の技術もまた、薄毛・抜け毛対策に用いられている。先の乾院長が10年前に開発したのは「ナローバンドLED(発光ダイオード)治療」である。
「LEDに、傷を治したり皮膚の色素沈着を取り除いたりする効果があることは当時から報告されていましたが、私は毛根にある『毛乳頭細胞』を活性化させる効果を、新たに発見しました。赤色LEDの光は波長が長いので、頭皮の表面から5ミリ程度の深さにある毛乳頭細胞にまで届いて活性化させ、発毛を促進することが可能なのです」
ただし、赤色LED照射には薬物療法に勝るほどの強力な効果はなく、
「基本的には薬と併用していますが、動悸やかぶれなどの副作用があるミノキシジルは使わず、LEDだけで治療している高齢の女性もおられます。理想は毎日ですが、週1回でも効果の出る人はいます。現在は6万円ほどの機材を買えば、自宅で1回20分もあれば照射ができます。熱を帯びないLED光を当てるだけなので、頭皮の痛みや赤みなどの副作用が出た例はありません。3カ月以上続けると、効果が実感できると思います」(同)
このLED療法も、先のガイドラインでは推奨度「B」(行うよう勧められる)とされている。
さらに現在「自家毛髪細胞再生治療」に取り組んでいるのが、坪井良治・東京医科大学名誉教授である。この治療では、まず患者本人の後頭部から直径数ミリ程度の皮膚組織を採取し、そこに含まれる「毛球部毛根鞘(もうこんしょう)(DSC)細胞」を単離して培養するという。
坪井名誉教授に聞くと、
「このDSCとは、髪の毛の元である毛母細胞に指令を与える毛乳頭細胞の誘導に関与しています。培養した細胞を患者の脱毛部に注入することで発毛させるという治療法です。これは男女いずれの治療にも使え、自家細胞のため拒絶反応が起こるおそれも少ない。髪の毛をゼロから新生させるiPS細胞を用いた治療に比べ、技術的に実現性が高いと思います」
発毛した髪の持続性については、
「いったん皮膚組織を採取して培養すれば、DSC細胞を保管することができ、発毛効果が少なくなればそのつど注射することができます。私のグループは昨年、男性50人と女性15人を対象にした研究結果を論文で発表しましたが、この治療法には実際に毛髪を太く、長くする効果があり、副作用もわずかであることが確認できました。現在、より広範囲にわたって注射し、発毛効果を観察している段階です。副作用の有無も含め、1~2年のうちには成果を発表したいと考えています」(同)
有効性が確認された暁には、クリニックで再生治療が受けられることになる。もっとも肝心の治療費は、
「自己負担で、おそらく100万円は下らないでしょう」(同)
との見通しだが、世に根強い“ふさふさ志向”もあって、大いに需要が高まりそうである。
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