金与正の執念で粛清された北朝鮮軍のツートップ 新設ポストで読む正恩の“健康状態”
正恩の健康問題
「金与正は2020年6月、脱北者団体による批判ビラ散布に強い不快感を示し、韓国に対する部隊の展開を軍に求めると発表しました。更に4日後、開城(ケソン)にあった南北共同連絡事務所を爆破し、大きな注目を集めたのです。ところが軍総参謀部と中央軍事委は、与正の要請を拒否し、軍事行動を保留としました。与正の面子は丸潰れとなったわけですが、この保留を画策したのが、李と朴の2人でした」(同・重村教授)
ここで思い出す必要があるのが、正恩の健康問題だ。デイリー新潮は20年6月に「金正恩の“健康不安説”が再燃 きっかけは労働新聞が使った“ある文言”」の記事を配信している。
20年4月に入ってから、北朝鮮の国営メディアに正恩が登場する機会が激減し、これも大きな注目を集めた。韓国とアメリカの一部メディアが心血管系の手術を受けたと報じたのもこの時期だ。
健康問題が高い関心を集める中、5月に入って朝鮮中央通信は正恩が「肥料工場の完成式に出席した」と報じ、写真も公開した。だが、一部で影武者の疑惑が指摘されていた。
与正vs.李
この時、兄の代理を務めるような与正の動向が大きく報じられた。軍事行動を示唆したり、南北共同連絡事務所を爆破したりするなど、あえて耳目を集めるような行動を取っていたのだ。
「政治局拡大会議を伝えた朝鮮中央テレビの映像には音声がありません。音声のない動画は声紋分析ができないので、正恩の影武者が出席した根拠になり得ます。しかし、私の見たところ、今回は本人だったと思います。正恩は一時期より健康状態が回復したのでしょう。そして、彼の健康状態が悪く、場合によっては意識を失っていた際に、李と朴が重大な越権行為をしていた可能性があります。これを与正勢力が巻き返し、今回の粛清劇に踏み切った。粛清の前に、師団長と軍団長を40代と50代に大幅に入れ替え世代交代を実現し、軍を掌握する周到な準備を行っていたことも分かっています。現時点では、こんな見立てが可能でしょう」(同・重村教授)
正恩が生死をさまよっていることをいいことに、李と朴の2人は“我が世の春”を謳歌していた。どうもその際、やり過ぎてしまったようなのだ。
読売新聞は今年1月12日、「与正氏 党指導部外れる 政治局員候補 経済失政引責か」との記事を掲載した。
労働党の党大会で発表された人事を伝えた記事で、見出しにある通り、与正の“出世”が止まったと伝えた。
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