金与正の執念で粛清された北朝鮮軍のツートップ 新設ポストで読む正恩の“健康状態”
与正の作戦
朝日、読売、毎日、産経といった全国紙は、短い記事で「新型コロナ対策で正恩が幹部を叱責した」と報じるにとどまった。
「これほどの大ニュースにもかかわらず、北朝鮮で大粛清が行われたことを全く知らなかったという読者の方も少なくないと思います。その原因は、新聞各紙や民放キー局が、『叱責した』という報道にとどめたからです。『コロナ感染拡大が原因』と騙された格好ですが、韓国メディアはが李と朴の実名を挙げ、粛清の可能性を報じたのとは対照的です。日本の主要紙は、いわば腰が引けた状態だったわけですが、それは北朝鮮の国営メディアが解任幹部の名前を報じなかったことが原因と考えられます。ちょっと慎重すぎたのではないでしょうか」(同・記者)
北朝鮮情勢に詳しい東京通信大学の重村智計教授も、日本メディアの報道姿勢に疑問を呈する。
「北朝鮮の報道機関は、書記をはじめ政治局常務委員、政治局員、政治局員候補らが『召喚(=解任)』されたと伝え、政府幹部の降格も明らかにした大粛清事件なのに、日本の新聞はどうして背景を報じないのでしょうか。北朝鮮の国営メディアが新型コロナの防疫がうんぬんと言っているのは、あくまでも口実でしょう、北朝鮮の公式報道をそのまま信じてはならず、常に裏があり真実が隠されているとの常識を欠いているから、事件の真実に迫ることができないのです」
キーパーソンは与正
もし本当に李炳鉄のコロナ対策に不備があったのなら、正恩が口頭で注意するなど、他にやり方はいくらでもあるはずだ。
「中央委総会が終わって間もない中、わざわざ幹部を集めて政治局拡大会議を行い、李と朴が挙手しない映像や写真を公開するなど、あまりに露骨です。こうしたことから考えるに、これは北朝鮮で常態化している権力闘争の一環であり、李と朴一派は見せしめ的に元帥を解任されたと考えるのが自然なのです」(同・重村教授)
一体、李と朴は何をやらかしてしまったのか、重村教授は正恩の妹である金与正(キム・ヨジョン)(32)がキーパーソンだとする。
「彼女と、その一派が李と朴を“粛清”するよう作戦を巡らし、それが成功した可能性が考えられます。軍が正恩の指示に反した大規模不正密輸事件と汚職事件を犯したとの情報もあります。コロナ対策も怠っていた事実などを脱北者のルートでデイリーNKニュースも報じました。いずれも軍幹部の大規模な人事異動を考えると、軍が反乱を起こす危惧もあったはずです」(同・重村教授)
相当に緊迫した状況だったようなのだ。
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