ビートたけし、恩人「バンダイ」に「6738万円を支払え」 著作権を巡り泥沼訴訟に

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「芸人」が「裁判」で銭闘――。本気(マジ)を嫌い、世の中すべて洒落(しゃれ)のめす……そんな業を背負ったはずの人間にしては、何とも野暮(やぼ)な話である。「ビートたけし」が、恩人であるはずの「バンダイ」をお白洲に引きずり出した。「アウトレイジ」な訴訟の背後にあるものは……。

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〈金に関しては、子供の頃から厳しく教育されていた。金のことでつべこべ言うと、母親にこっぴどく怒られたものだ〉

 かつてたけしは著書『全思考』の中で述べている。

〈誰だって、金は欲しいに決まっている。だけど、そんなものに振り回されたら、人間はどこまでも下品になるというのが俺の母親の考えだった〉

 なるほど立派な考え方である。誰しもそう生きたいと願うが、大抵はそうはいかない。金に振り回される毎日が関の山だ。が、たけしは100億円ともいわれる有り余る富を得て、後述するが実際、“教え”に近い人生を歩んできた。

 が、今のご自身はどうだろうか。御年74歳。後期高齢者への仲間入りを前に、集大成の日々――に見える一方で、法廷にアウトレイジな「銭闘」を仕掛けていたことは報じられていない。

 ――被告は原告に対し、金6738万円を支払え。

 そんな物騒な訴状が東京地裁に提出されたのは、2月10日のことだった。

 原告は北野武、つまりたけしご本人。被告と記されたのは「バンダイナムコアーツ」。バンダイナムコグループで映像コンテンツの制作などを主とする会社だ。

「両者の縁は古いですよ」

 と言うのは、さる古参の映画プロデューサーである。

「これまでたけしさんの撮った全ての映画をビデオやDVDで販売してきた。しかもそのほとんどの作品については出資し、製作者に名を連ねています。たけしさんの作品は、評価はともかく、興行的にはそれほど旨味がないのは業界では知られていますが、それでも30年間に亘(わた)って支えてきた。たけしさんにとって、大恩ある会社ですね」(同)

 その恩人をなぜ訴えたのか。訴状を見ると、たけしの訴えは以下の通りである。

「自分は、『HANA-BI』や『座頭市』などの映画15作品について、脚本を書き、監督を務めた『著作権者』である。しかし、国内はともかく、これらの海外使用については、許諾を与えていないのに使用され、しかも対価が一切、支払われていない。著作権侵害に当たるから、損害賠償せよ――」

 この15作品とは、1991年の「あの夏、いちばん静かな海。」をはじめ、「キッズ・リターン」、ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した「HANA-BI」、「菊次郎の夏」、「座頭市」、近年ヒットした「アウトレイ」」シリーズ3部作など、監督・北野武を語るのに必要不可欠な作品ばかりだ。

 もちろんバンダイはこの主張に真っ向から反駁しているわけだが、その前になぜバンダイがターゲットになったのかといえば、複雑な事情がある。これらの映画のほとんどは複数の社が出資し、「製作委員会」などの形を取って製作を担ってきた。そして、幹事社として利用の仕方を実際に決めてきたのは、その中でも「オフィス北野」(現・TAP)。たけしが設立した会社である。だから本来、これは同社に言うべき話なのだが、周知の通り、2018年、たけしは「北野」の森昌行社長と対立して独立、新事務所「T.Nゴン」に移籍した。「北野」は規模縮小を余儀なくされ、森社長も退社。同社が権利関係を扱うことが事実上、不可能になる。そこで、「北野」は同年12月、やはり長年たけし映画を支え、一番の出資者でもあったバンダイナムコアーツにその権利を譲渡した。それゆえ、同社が代わって製作者の中心的な権限を持つようになったのである。

暗黙の許諾

 では、突如、喧嘩を売られたバンダイはどう出たか。こちらはこちらで喧嘩上等とばかり、たけしの言い分を否定している。

 同社の主張はこうだ。

「本件の映画の著作権は、『製作委員会』等にある。それは著作権法にも明らかだ。万が一、そちらが主張するように、著作権が『北野武』にあるとしても、あなたは当時、幹事社の『オフィス北野』の取締役だった。『北野』があなたに無断で利用するなど、信じ難い――」

 双方が係争状態になったのは、昨年夏。たけしの代理人が15作品の海外分の使用料について、支払いを求めて文書を送った。対してバンダイは、「北野」から権利を引き継いだ18年12月以降については支払いを明言。それ以前は「北野」との問題なのでこちらは関知しないと回答した。しかしこれにたけしは納得せず、話し合いは決裂。調停もまとまらず、冒頭の訴訟となったわけである。

 さて、これをどう見るか。

 海外分が支払われていないとなれば、素人目に見ればこれは事件だ。たけし側の肩も持ちたくなる。

 ところが、だ。

「たけしさんの主張はかなり無理筋だと思います」

 と述べるのは、著作権法に精通する弁護士である。

 解説を聞こう。

「書籍や絵画であれば、普通は作品を書いた、あるいは描いた人がそのまま著作権者となる。しかし、映画の場合は著作権法上、出資者や配給会社に認められると定められているのです」

 これには映画特有の事情がある。書籍や絵画と異なり、映画は監督、脚本家、出演者などたくさんの人が関わる。それぞれが権利について口出しすると、折角作った映画が自由に使えなくなってしまうのだ。

「また、そもそも、映画がコケて損をするのは、出資者であって、監督や脚本家ではない。一番リスクを背負う者が権利を持つという考え方なのです」

 また、

「脚本については、映画での使用に対し、著作権はともかく、許諾を与える権利は持つでしょう。しかし、バンダイが言う通り、たけしさんは幹事社である『オフィス北野』の役員だった。『北野』が海外で作品を利用するに当たり、たけしさんに無断で行うことは考えにくく、許諾していた、あるいは暗黙の許諾があったと取られるのが普通です」

 実際、これらの映画の海外プロモーションにたけしは参加している。やはりたけしの主張は通り難い。

 そもそも、である。

「たけしさんが海外での作品使用について、これまで対価を貰っていなかったのは事実でしょう。しかしだからといって、受け取る権利があるかといえば、法的にはそうとも言えないのです」

 と前述の弁護士は続ける。

「かつて映画は今より収入が少なく、上映やテレビでの放送くらいしかお金が入ってこなかった。ですから、監督や脚本家は作品ごとにギャラを貰って終わり、というのが当たり前でした」

 しかし、ビデオやDVD販売、最近では配信での収入が増えてきた。

「そこで、こうした収入についても監督や脚本家に使用料を支払うべしという流れができた。しかし、これはあくまで最近の話であり、未だ権利が確立されたものではなく、双方の交渉によって決まるもの。まして海外についてはより不確定で、当然払うべき権利とは見られていません」(同)

 やはり著作権法に詳しい、金井重彦弁護士も言う。

「裁判では、北野さんが劣勢になるでしょう。日本の映画監督は自分が作品を作ったら自分のものになると思いがちですが、実際にお金を集めた者のものになるのが法の規定なのです。そもそも、バンダイは18年、『北野』の権利を引き継ぐに当たり、それ以前の債権債務まで引き継ぐ契約をしていないでしょうから、以降はともかく、それ以前の使用料までバンダイに寄越せというのは無茶な話です」

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