熱海・伊豆山地区で起きた土石流~東海道新幹線の地質調査、線路工事からわかること

国内 社会

  • ブックマーク

ボーリング調査の結果が鍵を握るか

 泉越トンネルの地質は一部に温泉余土があることから悪く、工事中にわき出した地下水は毎秒1620リットルにも達したという。完成後は毎秒25リットルとこれでも多いようだが、この種の長いトンネルとしては少ないほうだと国鉄の記録には書かれている。

 一方、第一熱海トンネルは1960年4月1日に着工となり、1963年7月17日に完成した。トンネル建設場所のすぐ上まで家屋が階段状に建ち並んでいたので、掘削工事には一般的に用いられる火薬を使わないで臨まざるを得なかったそうだ。また、トンネル真上の家屋に影響を及ぼさないよう、上部を掘削した後にセメントを山の中に注入して万全を期したはずであった。

 ところが、伊豆山地区の入口から300mほど入り、トンネルの上から26mのところに建てられていた鉄筋コンクリート10階建ての八丁園ホテル(現存しない)をはじめ、計8軒の建物が大きく歪んでしまう。つまり、第一熱海トンネルを掘ったためにトンネル上の地盤が崩れたのだ。国鉄は8軒の建物の持ち主に合わせて2億3600万円、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く場合)に基づいて現代の貨幣価値に換算すると10億9243万円を建物補償費として支払ったという。

 第一熱海トンネルでも工事中にやはり大量の地下水がわき出した。完成後も毎秒0.8リットルの地下水が流れ出していて、伊豆山地区の上水道として供給されている。

 以上が伊豆山地区を中心とした東海道新幹線の工事の様子だ。硬軟ともに極端で掘削には困難を来した地質、そして家屋が密集する条件と、相当な苦労の結果、東海道新幹線が完成したことがうかがえる。なお、国鉄は高架橋上に設けられた東海道新幹線の熱海駅を建設する際に地表から20m下の地点までボーリング調査を実施した。結果は、約5m下までは有機物の混じったローム、約5mから約15mまではローム、約15mから20mまでは粘土の混じったロームであったという。

 ロームとは粘土を等量に含んだ土壌で、火山から噴出されたものが風化して生成されたもので、関東ローム層に代表されるとおり、比較的軟弱な地盤であると考えられる。伊豆山地区の地質が熱海駅と同じかどうかはわからないが、今回の土石流と何らかの関連性があるかもしれない。

 伊豆山地区で起きた土石流の原因が正確に突き止められるのはまだ先であろう。繰り返しとなるが、本稿が原因の究明に少しでも参考になるのであれば、これに勝る幸せはない。

梅原淳
1965(昭和40)年生まれ。三井銀行(現在の三井住友銀行)、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て、2000(平成12)年に鉄道ジャーナリストとしての活動を開始する。著書に『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)ほか多数。新聞、テレビ、ラジオなどで鉄道に関する解説、コメントも行い、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談室」では鉄道部門の回答者を務める。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月9日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。