熱海・伊豆山地区で起きた土石流~東海道新幹線の地質調査、線路工事からわかること

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とにかく強固な岩盤

 泉越、第一熱海トンネルとも伊豆山地区ではカーブの途中に設けられているので、東海道新幹線建設時に設定された曲線区間用のトンネルが掘られている。どちらの山とも、トンネルの断面は幅9.53m、高さは8.33mで、上半分がアーチを描き、下半分がすぼむようになるいわゆる馬蹄形となっていて、内部に2本の線路が並べられた。山の重みを支えるコンクリートの厚さは、底部から高さ4.45mまでの下半分が70cm、ここから上のアーチ部分が50cmだ。

 ところで泉越トンネルには、どこから掘られたのか、そして断面の寸法は不明ながら、トンネルの入口を指す坑口のうち伊豆山地区側から321m入ったところまで横坑(おうこう)が掘られたという。

 横坑とは列車が通る本坑に先立って地質調査の実施や地下水を流すため、さらには本坑を掘る際に作業場所を増やすために掘るトンネルを指す。長いトンネルや難工事が予想されるトンネルの掘削工事をスムーズに進めるために開発された。泉越トンネルの横坑は意外にも戦前につくられている。実は戦前に新幹線計画、通称・弾丸列車計画があり、戦時中に工事が打ち切られる前に完成までこぎ着けたのだ。

 続いて地質を見ていこう。泉越トンネルの伊豆山地区の地層は伊豆山石英安山岩(いずさんせきえいあんざんがん)を中心に凝灰角礫岩(ぎょうかいかくれきがん)、凝灰岩(ぎょうかいがん)などから成る。石英安山岩は建築用石材でよく用いられる強固な岩石で、凝灰角礫岩や凝灰岩は火山から噴出したさまざまな物質が固められた岩石だ。

 今度は第一熱海トンネルの伊豆山地区の地層を見ていこう。こちらは稲村安山岩(いなむらあんざんがん)と凝灰角礫岩とが互い違いに地層を形成している。安山岩も硬く、やはり建築用石材に用いられるという。

掘削工事は困難の連続

 国鉄によると、伊豆山地区の泉越トンネル、そして第一熱海トンネルとも上部半断面掘削工法(じょうぶはんだんめんくっさくこうほう)で掘削工事が行われたとある。地質の悪いところでは大断面のトンネルを一気に掘ると崩壊が起きたり、大量の湧き水に見舞われたりする恐れが大きい。そこで、トンネルの断面をいくつかに分ける工法が開発された。上部半断面掘削工法ではまずは上半分から掘り、コンクリートで固めた後、残りの下半分を掘っていく。

 とはいうものの、どちらのトンネルも正確には下半分のほぼ中央に底設導坑(ていせつどうこう)という小さなトンネルを先に掘り、続いて上部を掘る底設導坑先進上部半断面工法といってさらに地質の悪い山向けの工法が採用されている。

 底設導坑はやはり戦前に掘削されていて、泉越トンネルは伊豆山地区の坑口から260m分が1943年に、第一熱海トンネルは長さ606mのすべてが時期不明ながらすでに完成していたという。

 泉越トンネルは1960年1月1日に着工、同年1月12日に工事が一時中断され、同年6月6日に再着工、1963年5月15日に完成した。中断の理由は坑口付近での用地の買収に問題が生じたからだそうだが、坑口が東京駅側か、それとも伊豆山地区側かは国鉄の資料に記されていない。あえてぼかしているようにも感じられる。

 掘削工事は困難の連続であった。特に東京駅寄りの区間が顕著で、温泉作用を受けて変質した高熱の温泉余土(おんせんよど)という軟らかい地質の場所が予想の150mよりも長い535mに及んだ。そして、東京駅寄りの坑口から796m、伊豆山地区の坑口から2.397kmの地点から伊豆山地区に向けて30mの範囲で1960年12月16日、約250立方メートルと大量の土砂が噴出するという事故が起きている。

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