熱海・伊豆山地区で起きた土石流~東海道新幹線の地質調査、線路工事からわかること

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 熱海市伊豆山地区で起きた土石流を受けて、この付近を走る東海道新幹線にも注目が集まった。この地区に1960年代初めに線路が建設された際に調査された地質の状況、そして実際に行われた工事の様子などについて、鉄道ジャーナリスト・梅原淳氏が資料を読み解き、お伝えする。

 静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)地区で2021年7月3日に発生した土砂災害は、本稿を執筆している7月7日現在でもなお多数の方々の安否がわからない状態だ。安否不明者の皆様全員のご無事を祈りますとともに、今回の土砂災害で犠牲になられた皆様のご冥福を祈り、被害に遭われた皆様にお見舞い申し上げます。

 伊豆山地区はJR東海の東海道新幹線やJR東日本の東海道線・伊東線の列車が発着する熱海駅の北北東側約1kmに位置する。東南東側の相模湾から400mほど内陸に入り、ここから西北西側に向かって約800m、そして間口は約300mの範囲に開けた急斜面であり、住宅や商店などが建ち並ぶ。土砂は西北西側から東南東側に向かって土石流となって伊豆山地区に被害をもたらしたようだ。

 鉄道に目を向けると、伊豆山地区の東南東側にJR東海の東海道新幹線、そしてJR東日本の東海道線の線路が北北東から南南西に向けて並ぶように敷かれている。報道された映像や画像を見ると、道路を流れた土砂はまずは東海道新幹線、そして東海道線の線路をくぐっていったらしい。両路線とも土石流が発生したときには大雨に伴って列車の運行は見合わせとなっていたし、土砂の量が少なかったために線路への被害もほぼなかったようだ。現在は東海道新幹線、東海道線とも平常どおりの運行に戻っている。

『東海道新幹線工事誌』によると

 今回伊豆山地区の鉄道について記した目的は、この地区に1960年代初めに建設された東海道新幹線の工事の記録を紹介するためだ。国鉄の静岡幹線工事局が編纂し、同じく国鉄の東京第二工事局が1965年に発行した『東海道新幹線工事誌』には、伊豆山地区周辺の線路の工事、特にトンネルの掘削工事について詳細に記されている。

 工事前に調査された地質の状況、そして実際に行われた工事の様子などを粛々と取り上げたい。伊豆山地区で救助作業や復旧作業を続けておられる皆様に少しでも参考になるようであれば幸いだ。

 東海道新幹線の線路は北北東側が東京駅寄り、南南西側が熱海駅寄りに敷かれた。東京駅方面からの列車が伊豆山地区に到達するのは長さ3.193kmの泉越(いずみごえ)トンネルをくぐっている最中で、150mほど進むとこのトンネルを出て明かり区間と呼ばれる地平を行く。直後に道路を越える架道橋(かどうきょう)を通る。先述のように土石流が通過したと考えられる場所だ。

 明かり区間は284mと、東海道新幹線を走る16両編成の車両の長さの400mよりも短く、すぐに次のトンネルへと入る。長さ606mの第一熱海トンネルだ。伊豆山地区はこのトンネルに入ったあたりまでの範囲ではある。だが、参考となると思うので第一熱海トンネルも紹介しよう。

 東海道新幹線の列車が第一熱海トンネルを抜けると目の前に熱海駅のホームの先端が現れる。この駅に停車する列車は16両編成の長さ分の400m進んで到着となる。

 なお、伊豆山地区の泉越トンネルから第一熱海トンネルを出た直後までの線路は、半径1900mと東海道新幹線としては急なカーブを北北東から南西に向けて曲がっていく。熱海駅を通過する列車はこの駅の新大阪駅寄りにある半径1500mとさらに急なカーブを西に向けて曲がるためにスピードが時速190kmに抑えられている。

 したがって、伊豆山地区を走る列車の速度も東海道新幹線の最高速度の時速285kmではもちろんなく、時速200kmをようやく越えるかどうかといったところだ。それだけに、列車の窓からこの地区の被災状況に気づいたという方も多いかもしれない。

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