ワクチンへの疑問を専門家が徹底解説 1回だけの接種がダメな理由、副反応への対処法は?

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 コロナの出口はワクチン接種次第――と言われているが、現にそうなのか。東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授に尋ねた。

「いまのペースでワクチン接種が進めば、10月中に総人口の約6割が接種を終える計算です。しかし、60%で集団免疫が獲得できると言われていましたが、イスラエルのリバウンドなど海外の例をみると、集団免疫の獲得には、80%程度の接種率が望ましいと考えます。ただ高齢者の9割が接種を終えれば、ワクチンは発症、重症化、入院、死亡の各リスクを9割以上抑制すると報告されているので、医療機関への負担が減ることが期待されます。また、高齢者を取り巻く人たちが9割以上接種すれば、高齢者の感染者数も減ると期待されます。つまり、出口をコロナとの“共存”と考えた場合、それは見え始めているとは言えるでしょう」

 そんななか、ワクチン担当の河野太郎行政改革相が、モデルナ製ワクチンの供給が追いつかず、職域接種の受付を休止すると発表した。供給が滞るのか、と不安になるが、厚労省健康局健康課予防接種室に尋ねると、

「モデルナ製を使った職域接種は、現状、モデルナ製の契約数である上限5千万回を超えそうな勢いで申し込みをいただいているため、大臣は受付停止の判断をしたのでしょう。ただし、職域接種自体は進んでおり、モデルナ製を9月までに5千万回分確保するというスケジュールにも変更なく、供給に遅れもありません。10~11月に接種完了という政府の目標も変わりません」

 予定が遅れるわけではないというが、まだワクチンを接種していない人、すでに1回、2回打った人、それぞれに不安はあるだろう。特に、接種後に死亡した人が356人と聞けば、なおさらである。そこで不安に一つひとつ答えたい。

 Q.ワクチン接種後に感染する人がいるが、抗体ができるのは2回目の接種から何日後か?

「新型コロナのワクチンの場合、抗体は1回目の接種の2週間後から徐々に増え、2回目の接種で一気に増加する。論文やデータを見るかぎり、2回目の接種後には感染しないだけの抗体がある程度できるようです」

 と寺嶋教授。埼玉医科大学の松井政則准教授は、

「抗体ができるのは2回目を打って1~2週間後。抗体を誘導するには、さまざまな免疫反応が関わり、段階を踏んで完全に誘導されるまで時間がかかるのです。2週間は身体の免疫ができていない可能性があるので、気をつけたほうがいい」

 と回答した。来日したウガンダの選手が感染したのも、接種直後だからか。

「ウガンダ選手はアストラゼネカ製ワクチンを2回接種し、デルタ株に感染したと聞きます。アストラゼネカ製は、デルタ株に対しては効果が60%程度に下がるので、感染しても不思議ではありません」(寺嶋教授)

 Q.1回だけの接種ではダメなのか。

「1回目で免疫をある程度起こし、2回目で免疫反応をグンと上げる仕組み」

 と、松井准教授。だから寺嶋教授はこう言う。

「1回だけの接種では、まだワクチンを打っていないのと同じ状態だと思ったほうがいいでしょう。私の病院にも、1回目の接種から10日ほどで感染し、入院された方がいます」

 Q.デルタ株の猛威で3回目の接種が必要になる?

 浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師は、こう説明する。

「従来株や英国株は1回の接種で約80%の効果、2回で95%の効果がありましたが、デルタ株は1回目では60%ほどしか効果が出ず、2回目で95%ぐらいになる。デルタ株を考えると、2回打ったほうがいい」

 要するに、感染力が強いデルタ株に対しても、2回打てば十分な効果が発揮されるというのだ。

 Q.翌日休める日に打つべきなのか?

「1回目を打った翌日は、腕が腫れて上がらなくなり、わきの下のリンパ腺が腫れて痛くなる場合が多いので、テニスなどはやめたほうがいい。また、2回目を打った後はインフルエンザの予防接種に似て、倦怠感を覚えたり発熱したりするケースがあるので、次の日は予定を入れないほうがいいかもしれません」(矢野氏)

 松井准教授も、

「特に2回目の接種後は、発熱、頭痛、吐き気、下痢などの症状が出ることがあります。どういうわけか若い人のほうがその頻度が高く、医学部の学生も7~8割は反応が出て、講義を休んだ子もいます」

 寺嶋教授が加える。

「こうした副反応は出て当たり前のものと考え、焦らないように休みをとっておくと安心です。また、ほとんどの場合、副反応は翌々日にはよくなります」

 Q.接種で発熱したら市販の解熱剤を飲んでいい?

「接種後に熱が出たら解熱剤を、痛みが治まらなければ鎮痛剤を飲めばいい。市販のもので構いません。ただ、3日経っても症状が治まらなければ、なにか別の病気であるかもしれないので、病院に行ったほうがいいと思います」(矢野氏)

 Q.前日と当日、入浴や飲酒は大丈夫か?

「入浴は問題ありませんが、アルコールは控えたほうがいいでしょう。アルコールが加わると、疲労感や頭痛がよりつらく感じられるかもしれません。ただ、たとえば頭痛の副反応が出た際、それが副反応によるものか、アルコールによるものかわからないのは、経過を観察したり、2回目を打つかどうか検討したりするに当たり、好ましくありません」(寺嶋教授)

過度の不安も危険か?

 Q.1回目ファイザー、2回目モデルナでもいい?

「海外では1回目にアストラゼネカ製のウイルスベクターワクチンを接種し、2回目に、ファイザーのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを接種する臨床試験が行われたり、血栓症のリスクを考慮し、2回目にファイザー製のワクチンが接種されたりしました。おそらく別のワクチンが混ざっても大丈夫なのでしょう。ただ、混ざった場合の臨床試験データは十分ではないので、1回目と2回目に別のワクチンを打つのは、やむをえない場合のみと考えたほうがいいでしょう」(寺嶋教授)

 Q.体内に血栓とは、どんな症状なのか?

「mRNAワクチンの場合、男性や50歳以上の女性には見られませんが、18~50歳の女性には100万人に8人ほどの割合で、血栓ができる人がいます。自覚症状は頭が痛い、手が動かしにくい、などが挙げられますが、極めて珍しい症状で、なかなか当たることはないと思いますが」(矢野氏)

 Q.こんな症状が出た人は2回目を避けたほうが無難、という例は?

「ワクチンを打ってはいけない状況は2通りしかなく、一つは、当日に37・5度以上の熱が出ている場合。もう一つは、1回目にアナフィラキシーショックが出てしまった場合です」

 と矢野氏。寺嶋教授は、

「アナフィラキシーは接種後15~30分程度で出ることがほとんどですが、それ以降に発症する例がなくはありません。呼吸困難やじんましん等、アナフィラキシーが疑われる兆候があれば、すぐ病院に行きましょう」

 と語り、付け加える。

「腕の痛みや倦怠感、発熱などの副反応は、“そういう症状が出るもの”と考え、慌てないことが大事ですが、翌々日には改善するケースが圧倒的に多く、もしこうした症状が3~4日続く場合は、病院に相談したほうがいいでしょう」

 Q.死との因果関係は本当にないのか?

「6月9日、71歳の父がモデルナ製ワクチンの1回目を打ち、翌日亡くなった」

 という叫びが、ある男性から編集部に寄せられた。

「翌日も腕に痛みが残り、その後、17時に夕食をとり、20時ごろにデザートのアイスを食べて就寝後、トイレに入ったが長く出てこないので見に行くと、床に倒れ込んでいたのです」

 病院に搬送されたが、その日のうちに亡くなり、死因は心筋梗塞とされたという。持病もなく、男性は、

「ワクチンが関係したとしか思えない」

 と訴えるのだが――。

「ファイザーやモデルナのワクチンが直接の引き金になって亡くなった例は、いまのところ世界中探しても、ないのではないか」

 と、松井准教授。続いて寺嶋教授が説明する。

「日本ではワクチン接種後の死亡事例が300件以上報告され、どの件も専門家が検証していますが、因果関係が否定できないという例は現状0件です。家族を突然失った方は、ワクチン接種が原因と思われるかもしれませんが、毎日、高齢者の1万600人に1人が亡くなる、というデータがあるのも事実です。この男性の場合、詳しいデータがないので断定はできませんが、これまでの事例を見るかぎり、ワクチンが直接の原因になっての心筋梗塞は考えづらいでしょう」

 ただし、「間接的な原因」までは否定しない。

「心筋梗塞のリスク因子の一つに、過度のストレスや緊張があります。ワクチン接種前の不安や、副反応が続いたことへのストレスで、心臓に負担がかかった可能性はゼロではありません」

 不安や恐怖を抱いている人は、避けたほうがいい場合もあるのかもしれない。

 Q.「菌やインフルに罹ったことがない」人は、打たないほうがいいのか?

 明石家さんまがラジオで「だから打ちたくない」と発言して炎上したが、実際のところ、どうなのか。

「体力が著しく落ちた高齢者や、重大な疾患がある方は、副反応に耐えられない可能性もゼロではありません。一方、そういう方はコロナ感染時の死亡リスクも高く、ご自身やご家族でどうするか決める必要があるでしょう。また、コロナは通常の風邪やインフルエンザより重症化率、死亡率が高いのも事実。風邪やインフルと無縁だからコロナも大丈夫ということにはなりません。もちろん打つ、打たないを選ぶ自由はあります。秋ごろには周囲に接種を完了した人が増えているでしょう。そのとき接種の有無によるさまざまな違いが見えるでしょうから、それを判断基準にするのも手だと思います」(寺嶋教授)

 コロナの出口を早く引き寄せるためにも、ワクチンを知り、疑問を解消しておくことである。

週刊新潮 2021年7月8日号掲載

特集「コロナの出口戦略」より

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