佐藤二朗主演、ひきこもり非常勤講師の優しさに心打たれるドラマ「ひきこもり先生」
11年間ひきこもりを経験し、3年前に社会復帰を果たした焼き鳥店の店主。そんな男が中学校に非常勤講師として赴任し、不登校の子供たちとふれあうドラマが「ひきこもり先生」だ。主演の佐藤二朗の優しさに心打たれるこの作品を、テレビ評論家の吉田潮氏はどう見たか?
よくあるくすんだ赤提灯の焼き鳥屋。壁にはなにやら注意書きの張り紙が。「店主に話しかけないでください」「注文は紙に書いてください」と続く。人嫌いな頑固親父の店? と思いきや「サービスはしません」「すみません」とある。無愛想なんだか丁寧なんだか。ここの店主、実は11年間ひきこもりを経験、3年前に社会復帰を果たした男なのだ。
そんな焼き鳥店店主が中学校で不登校の子供たちとふれあうドラマが「ひきこもり先生」(NHK総合・土曜21時~)である。主演は佐藤二朗。手練れのひきこもり、と言えば二朗。「マメシバ」シリーズ(東名阪ネット6他)で見事に偏屈なひきこもり中年ニートを演じ、2012年の朝ドラ「純と愛」の大阪編でも、一見粗暴な長期ひきこもり客を演じた。「偽装の夫婦」(日テレ・2015年)でもコミュ障でややひきこもりがちなマジシャン役だったし、「ひきこもり先生」のタイトルを聞いたらそりゃもう二朗の右に出る者はいない、と思った。
舞台は公立の梅谷中学校。スクールソーシャルワーカーの磯崎藍子(鈴木保奈美)と新米教師の深野祥子(佐久間由衣)は、不登校生徒のための「STEPルーム」の運営を任されているが、担任教師たちは日々の業務で忙しく、協力的とはいいがたい。不登校の生徒は13名。榊校長(高橋克典)は自らの体裁も含めて問題解決に躍起で、夏休み明けには13名全員登校させる指令をくだす。さらに、ひきこもりから卒業できた人材を非常勤講師として起用することを提案。それが、二朗演じる焼き鳥屋店主の上嶋陽平だった。
人情派や破天荒教師から離れて
陽平はひきこもりサバイバーとして崇められることも利用されることも、初めは全力で拒否。自分自身、家庭を持ってひとり娘(吉田美佳子)もいたが、友人の裏切りを機にひきこもり生活へ。愛する家族も失った苦い経験と後悔が、人と距離を置く理由でもある。
それでも、ひとりの不登校生徒・堀田奈々(鈴木梨央)と偶然出会い、彼女の心の叫び声を聴く。学校にも家庭にも居場所のない子供たち、自己肯定感を育めない子供たちを救いたいと一念発起して、非常勤講師を引き受けたのだ。
学校が抱える諸問題を描くドラマといえば、昔は人情派教師や破天荒教師が活躍する作品が多かった。金八しかり、鬼塚しかり。ここ数年は「第三者の大人」を描くことが増えた。スクールロイヤーにスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、そして非常勤講師。決して教師が無能というわけではない。教師は教育だけでなく、多岐にわたる業務をこなさなければいけない激務だ。教師にも限界がある、という現実をひしひしとドラマから感じるようになった。
見どころは大きく3つ。まず、佐藤二朗が演じる「優しさ」。非常勤講師といっても、先生ではない。勉強を教えるわけでもない。心に、家庭に、問題を抱えている子供たちに、そっと寄り添うだけの姿がいい。答えやヒントを提供するでもなく、徹底して子供たちの心の声を聴く。
「傾聴」できる大人って案外少ないんだよなとしみじみ。さらに言えば、大人はたいてい聞き流す。陽平は子供たちの声にならない怒りや悲しみ、絶望を決して流したりせず、口数は少ないまでも必ず受けとめる。焼き鳥はまずいけれど、温かみがじわじわと遠赤外線のように伝わる。もしかしたらコミカルなイメージが強いかもしれないが、この佐藤二朗は必見。
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