「コントが始まる」が描いた“20代の正しい費やし方” そこそこ真面目な令和の若者のリアル

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 今期は各局ドラマが超豊作だった。私は大興奮&大満足。あぁもうこのまま死んでもいいとは思わないまでも、燃え尽き症候群に陥りそう。周囲で「面白い」という声を最も多く聞いたのが「コントが始まる」だった。主に「まめ夫」や東大受験モノについていけない人々が支持していた模様。

 夢を追いかける男たち、心折れた女に、自分に疑問を抱く女。20代男女の群像劇を豪華人気俳優メンバーでお届け。さぞや若い方に人気だろうと思いきや、案外年輩が熱狂した感もある。

 高校の同級生がお笑い芸人のトリオを結成。共同生活を送りながら、10年間の芸能生活に終止符を打つまでの物語。たぶん40代以上の人は自分の若い頃と重ねたのだろう。私も高校時代の文化祭を思い出したし、若いうちに友達と住んでおけばよかったなぁと思った。役者を辞めて家業を継いだ私の夫は、特に胸に迫るものがあったようだ。コントのネタと物語がシンクロしていく構造も、年輩の私は大好き。ラストのオチで「なるほど!」「うまいッ!」とつい声出しちゃったもの。

 なんつっても座組に感心したよ。心の中で呼んでいる略称で書くよ。スダマ・カミキ・タイガに、カスミとヨシネ(芳根京子)。人気と実力を兼ね備えたそれこそ主演級の面々に、新星・古川琴音が絶妙な妹キャラとして好演。

 昭和の根性論ぶちかますでもなく、かといって平成に蔓延(はびこ)った射幸心があるわけでもなく、そこそこ地道に真面目に生きている令和20代のリアル。悲観的ではないが温度低めのトリオに、自信喪失した姉妹+エリート彼女。恋模様も描かれていたが、やきもきするほどではない。人気者を集めておいて、色恋沙汰は少なめ。熱いのは昔の恋バナ(謎のカルロスネタ)を披露する明日海りおくらい。もしやそこがネックだったのかな。

 私は恋愛要素よりも、3人の家族エピソードに断然興味が湧いた。スダマの兄(毎熊克哉)が順風満帆のエリートからマルチ商法で失敗し、引きこもりになった話、神の子・カミキが母(今期、亡くなる役が多めの西田尚美)と断絶に至った話、酒屋の頑固な父(金田明夫)と恋人の頑固な父(でんでん)と真正面から向き合うタイガ(頑固だらけ!)。それぞれの家族が描かれて、3人のキャラクターが一気に身近に感じた気もする。

 そして、カスミ&コトネの中浜姉妹が秀逸だった。定まらないアイデンティティをこじらせるでもなく、満たされない承認欲求にいじけるでもなく、我が道をちゃんと自分の足で歩いていく。世の中をうまいこと渡る術はわからなくても、世の中で大切なことは十二分にわかっているのだ、ふたりとも。姉妹が適度な距離を保ちながら3人に並走してくれたお陰で、物語に緩急もついたし、私も入りこめた。この距離感が今の時代を象徴しているのかな。

 あ、忘れちゃいけない、3人の背中を押しつつ、現実の厳しさもさりげなく匂わせた教師の鈴木浩介。重要。こういう先生に出会えたら、たとえ懐が豊かでなくても、心を豊かに保てる。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年7月1日号掲載

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