「金融危機がやって来る」と叫ぶ韓国銀行 年内利上げを予告、バブル退治も時すでに遅い?

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韓国の危機は米国のチャンス

 韓銀も韓国紙も触れない「前轍」があります。1997年の通貨危機は米韓関係悪化という政治的な要因が最後の一撃となったことです。アジア通貨危機の余波で韓国がドル不足に陥った際、米国はドルを貸さず、日本にも「貸すな」と命じたのです。

 韓国は中国と国交を結んだばかり。当時の金泳三(キム・ヨンサム)政権が中国に米軍の情報を横流ししていると米国は考え、お仕置きの機会を待っていました(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。

 現在も米韓関係は恐ろしく悪い。文在寅政権の反米ぶりに嫌気した米国は、韓国人に向かって「2022年3月の大統領選挙で再び反米左翼政権を選んだら、承知しないぞ」とのメッセージを送ろうとしていたところです(「菅首相に粘着する文在寅 “蚊帳の中”にもぐりこみたい韓国、『左派政権駆除』に動く日米」参照)。

 文在寅政権の韓国が金融危機に陥れば、願ってもいないチャンスです。韓国がドルを欲しがっても融通しなければ「反米政権を選んだからこうなった」と韓国人に思い知らせることができます。

 今回は、米国に言われなくとも日本は韓国にドルを貸さないでしょう。日韓関係は最悪。それに韓国は食い逃げの天才であることが分かったからです。

 2011年10月、欧州危機の余波でウォンが売られた際に日本は韓国との通貨スワップの増額に応じました。それにより危機を脱した李明博(イ・ミョンバク)大統領は10か月後の2012年8月10日、竹島に上陸しました。今後、韓国とのスワップに応じる政権はまず、出てこないと思います。

スワップは両刃の剣

――米国は韓国とスワップを結んでいます。

鈴置:米韓の間で結ばれているのは為替スワップで、期限は今年末。米国はこれを韓国に対する攻撃兵器にも使えるのです。為替スワップは外貨不足に陥った韓国の民間銀行に米FRB(連邦準備理事会)がドルを貸し出す仕組みです。その際は韓国銀行が保証します。

 韓国の民間銀行は主に米国と日本の銀行からドルを調達しています。為替スワップを結んでおけば米国は民間部門の貸し倒れを心配せずに、韓国を金融危機に追い込むことができます。

 為替スワップを発動した後は、民間同士の債権債務関係がFRBと韓国銀行のそれに転換するわけで、米政府は韓国政府に債権者として振る舞うこともできるようになります。

 スワップは通貨危機への抑止効果もあるにはありますが、米韓関係が悪い状況下では韓国にとって全面的な福音とは言えないのです。

IMF危機再び

――文在寅政権は自らが置かれた状況を理解しているのでしょうか。

鈴置:人によると思います。金融に詳しい人なら「いつ危機が来るか」と不安に駆られていると思います。外交の専門家は「米国が韓国の弱点を突いてくる可能性があるな」と考えるでしょう。

 しかし、与党はそんなことに目配りする余裕はなくなっている。来年3月の大統領選挙に勝たねばならないと思い詰め、その一環として国民全員に慰労金を配る計画を進めているのです。

 先ほど引用した韓国経済新聞の社説「韓銀、家計負債・資産バブルを警告…ばらまき政策は節制せよ」は絶句しました。金融危機を回避するため、韓銀がバブル崩壊のリスクを冒しても流動性を吸収しようとしている時に、またおカネをばらまくというのですから。最後の1文が以下です。

・日増しにはっきりとする危険信号から、いつまで目をそらすのか。

 1997年も同じでした。春先にタイから始まった通貨危機がアジアを北上してくるというのに、与党も野党も年末の大統領選挙で頭がいっぱい。有効な防衛策を一切打たぬまま、IMFに救われるまでウォンは売られ続けたのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月29日掲載

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