「金融危機がやって来る」と叫ぶ韓国銀行 年内利上げを予告、バブル退治も時すでに遅い?
韓国でバブル崩壊の可能性が高まる。必死で阻止に動く中央銀行と、見て見ぬふりの政界を韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。
***
カネを借りて投機するな
鈴置:韓国の中央銀行である韓国銀行が、声をからして国民に「借金までして投機するのはやめろ」と呼びかけています。韓国は今、株価も不動産価格もうなぎ登り。完全なバブル経済です。
ところが、世界は新型コロナが終息に向かい始めた。景気回復とともにインフレ懸念が現実のものとなりました。各国は利上げに動かざるを得ません。バブル崩壊の可能性が極めて濃くなったのです。
――世界中が利上げに動くのに、警告を発したのは韓国の中央銀行ぐらい。なぜでしょうか?
鈴置:まず、韓国では株価や不動産価格の上昇が半端ではないからです。2021年5月末のKOSPI(韓国総合株価指数)は2019年末と比べ47・6%上がりました。同じ期間のNYダウの上昇率は21・0%、日経平均ですと22・0%ですから、韓国の株価がいかに急上昇しているかが分かります。
KB国民銀行の調査によると、韓国全土のマンション価格も同期間に18・3%上がっています。「ソウルに限れば、100平方メートルのマンション価格は2021年5月までの4年間で93%上がった」と市民団体、経済正義実践市民連合が報告しています。
文在寅の失政が投機呼ぶ
韓国でこんなに激しいバブルが発生したのは、2017年5月にスタートした文在寅(ムン・ジェイン)政権の不動産政策の失敗が原因です。
韓国銀行の調査によると、一定の住宅を何年分の所得で買えるかを示す「住宅価格対所得倍率(PIR)」は2021年第1四半期に17・4倍。前年同期の13・9倍と比べ急上昇しました。
政府の稚拙な対策により不動産価格の暴騰を目のあたりにした韓国人、ことに20―30歳代の人々は「真面目に働くだけでは一生家を持てない」と絶望。借金して株式・不動産投機に乗り出したため、バブルがますます過熱したのです。
そこに2020年、新型コロナが発生。不況に陥らないよう、韓国も金融を大きく緩めた。するとそのおカネが投機に使われ、さらに不動産や株価が押し上げられたのです。
国民の借金の増え方も異常です。2021年第1四半期末の家計債務額は前年同期に比べ9・5%も増加。可処分所得に占める家計債務の比率も同時点で171・5%(推定値)と、1年間で11・4%ポイントも上がりました。
そもそも韓国の家計債務は世界的に見ても高水準です。国際金融協会(IIF)の調べでは、2020年3月末のGDPに対する家計債務額の比率は97・9%で主要国中1位。4位の米国(75・6%)や9位の日本(57・2%)と比べ、大きく上回っているのです。
上げても地獄、上げなくても地獄
――こんな状況下で金利を引き上げたら……。
鈴置:阿鼻叫喚です。実態以上につり上がっていた株価や不動産価格が暴落する可能性が極めて高い。借金して買っていた人は返済できなくなりますから、銀行の経営がおかしくなります。
すると、銀行がおカネを貸す機能がマヒしますので、実体経済も悪化します。借金が返せなくなった個人も財布のヒモを絞めますから、消費減少という経路を通じても実体経済は冷え込みます。
こうした金融危機は通貨危機を呼びがちです。外貨を借り入れる窓口は韓国の民間銀行であることが多い。その経営が怪しいとなれば、外国の金融機関はドルを貸し渋るようになるのです。
――金利を上げなければ……。
鈴置:韓国が上げなくとも米国をはじめとする世界が上げるのは確実です。ウォンの金利よりもドル金利の方が高くなれば、投資家はウォンをドルに替えたくなります。資本逃避が始まるでしょう。韓国経済は絶体絶命なのです。
韓国もインフレ局面に突入しました。原油価格の高騰を受け、今年5月の生産者物価は前年同月比6・4%も急騰。9年9カ月ぶりの上昇幅です。同月の消費者物価の上昇率も同2・6%で、9年1カ月ぶりの高水準でした。
「年内利上げ」とまで予告
――韓国経済が生き残る道はないのですか?
鈴置:1つあります。バブルが破裂する前に、軟着陸させるのです。容易ではありませんが、それしか手はない。だから韓銀が死に物狂いになって「投機をやめろ」と叫んでいるわけです。
今年1月5日、金融界の賀詞交換会で李柱烈(イ・ジュヨル)韓銀総裁は洪楠基(ホン・ナムギ)副首相兼企画財政部長官とともに、バブル崩壊の可能性に言及しました。おめでたい席での異例の発言でした。
李柱烈総裁は「流動性供給と返済猶予措置により潜在化していたリスクが今年は現実化すると予想される。高いレベルの警戒感が必要だ」と語りました(「慰安婦問題を言い続けるなら見捨てるぞ 韓国を叱りつけたバイデン政権の真意は」参照)。
新型コロナによる景気沈滞を防ぐため、韓国の通貨当局は金融を緩和したうえ、手形の決済期限を延期した。「そのツケが一気に回って来て、株価が暴落する可能性が高いから早く売れ」と警戒警報を出したのです。
というのに、韓国証券市場では個人投資家が買い進み、2日後の1月7日にKOSPIは史上初めて3000の大台に乗せ、その後も上げ続けました。
李柱烈総裁は業を煮やしたと思われます。中銀総裁としては禁じ手に近いのでしょうが「利上げ」を示唆することで、投機をやめさせようとしました。
5月27日の記者懇談会、6月11日の韓銀創設71周年記念演説、6月24日の物価安定に関する説明会と、1か月のうちに3回も総裁自らが「利上げ」を予告したのです。特に6月24日には「年内の適切な時点で、緩和的な金融政策を正常化する」と述べ、利上げの時期を「年内」と明示しました。
[1/4ページ]