「伊藤沙莉」を実兄は“天才女優”と絶賛 彼女が役作りを学んだ意外な場所とは

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事前に構想を練るタイプじゃない

 もっとも伊藤はさまざまな顔を持つ。演技の幅が途方もなく広い。アルバイトによって得た人間観察のストックも生きているのだろう。

 2017年の主演映画「獣道」では信仰にハマった母親によって宗教団体の施設に入れられてしまい、7年間そこで暮らしていた少女・愛衣に扮した。団体が摘発された後の愛衣はヤンキー一家や、サラリーマン一家を転々とする。その後、AV女優として名を成す。

 環境によって変わっていった愛衣を巧みに演じた。この映画での好演によって伊藤の名は映画界、ドラマ界の隅々まで知れわたった。転機となった作品だった。

 役に成り切る人である。だから事前に脚本を熟読し、完璧に役を作った上で撮影に臨むのかと思いきや、そうではないという。

「私は事前に構想を練るタイプじゃなくて、現場での感覚や感情で役をつくります。ガチガチに事前に決めていくと、監督の求めてくれたものに合わせにくくなることがありますからね。柔軟性を忘れてしまうと、がんじがらめになり、何もできなくなる恐れがあると思うんです。それに自分が作り上げてきたものが全てになってしまうと、共演する相手の方から出てくるものに素直に反応できなくなることもあります」(デイリー新潮、昨年9月28日掲載の伊藤のインタビューより、以下同)

「主演を食ってやる」といった考えで、自分が目立てば良いと思っている役者もいるが、伊藤は違う。相手の演技を大事にする。ドラマも映画もオーケストラのような共同作業と考えているようだ。

 天然でノンビリしている経理部のOL・佐々木真夕に扮した2019年のドラマ「これは経費で落ちません!」(NHK)もそうだった。多部未華子(32)ら共演陣に完全に溶け込んでいたのが記憶に新しい。自分が前に出ようとする演技はしなかったのに、しっかりと存在感を残した。

 上演中の舞台「首切り王子と愚かな女」では残忍な王子(井上芳雄、41)に仕える女性を演じている。生きる意味が見出せず、一度は死のうと思った女性だ。難しい役柄だが、演劇記者の間で好評を得ている。

 驚いた事に伊藤は演技のレッスンを受けたことがほとんどない。演技力は現場で身につけた。

「演技のレッスンが本当に嫌いだったんです(笑)。だから、お芝居のワークショップに一度参加したくらいですね」(同・伊藤)

 兄のオズワルド・伊藤は妹の伊藤の話になると、しつこいくらいに「天才女優」と口にするが、あながち身びいきとばかりは言えない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月28日掲載

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