100歳の現役ピアニスト「室井摩耶子さん」 練習は1日4時間 楽しく生きるコツは?
「私は肉食人種長寿族」
「お肉はよく食べます。フィレ肉がいいの。エネルギーの持ちが違う。昔は、フィレ肉ってなんでこんなに高いのかしらと思っていたけれど、与えられるエネルギーが全然違うんだからしょうがないのかなと思うようになりました。朝食も、トーストにハムかソーセージといった肉けのものを一緒に、というメニューを、ドイツに住んでいた頃から60年以上続けています。今でも、肉を食べて胃もたれするということはありません。内臓がうまく働いてくれていると思うので、祖先に大いに感謝しないと」
「私は肉食人種長寿族だから」と冗談めかして笑い、食事の基本は「好きなものを好きなときに好きなだけ食べる」ことだという。ピアノに生涯を捧げ、現在も一人暮らしをしているが、ホームヘルパーに来てもらう週2日以外は、身の回りのことはすべて自分でこなしている。ストレスを意識しないことも、健康で長生きできる秘訣のようだ。
「“好きなこと、やりたいことをやる”というのが、ストレスをためずに、健康でいられる秘訣。いくつになっても、ああベートーヴェンはこんなこと語っている、すごいなーなんて感じるのは、ありがたいことですよね。好きなことをしているからきっと、“あの人はわがまま放題”って言われているかもしれません(笑)。それと楽しく生きるコツを強いて言えば、人様の考えが自分と合わないときには、自分とは違うその人の考え方と割り切って、サッと流す。くよくよもしない。何があっても、『もういいよ。次に行こう』と切り替えることです」
「神様、もうちょっと向こう向いてて」
決して偉ぶって語ろうとはしない。人の悪口は絶対に言わず、ポジティブな言葉しか使わない。そんな室井さんの生き方のスタンスそのものが、豊かに生きるということなのかもしれない。生涯現役のピアニストとして、ここからさらに目指すこととは。
「4月7日に開催したコンサートの映像をテレビで観た方が、ベートーヴェンの月光の最初の一小節を聴いただけで、(感動で)鳥肌が立ったとおっしゃってくださいました。その言葉を聞いて、もう天にも昇らんばかりにうれしかったんです。聴いた方に喜んでいただけることこそ、私にとっても最高の喜び。演奏によって物語が紡がれていくと、聴いている人の気持ちもまた豊かに膨らみを増すものです。音楽はやはり、演奏者と聴衆が一体となって作っていくもの。聴いている人が演奏家に心を委ねて、一緒になって楽しんで感動してくれたら、演奏家としてその幸福に勝るものはありません。
まだまだ現役でいたい。だから高齢と言われる年齢に達してからは、『神様、私ね、まだまだやらなきゃならないことがあるから、もうちょっと向こう向いててね』って、ずっと思っているんですよ」
確かな技術を伴いながら円熟味を増し続ける演奏と、しなやかで柔和で芯の強さを感じる人柄。現役のピアニストとしてはもちろんのこと、室井さんには人としても惹きつけられる魅力があった。
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