100歳の現役ピアニスト「室井摩耶子さん」 練習は1日4時間 楽しく生きるコツは?
音楽は、音で作った詩であり小説であり戯曲
1982年、61歳で帰国した後も、自ら構成やトークを考えた「トーク&コンサート」を定期的に開催するなど、活躍を続けてきた。そんな室井さんだが、ピアニストとしてある使命感に駆られているのだという。
「ドイツ語に『ムジチーレン(Musizieren)』という言葉があるの。日本語に直訳すれば、『音楽をする』という意味になるけれど、ドイツでは『音楽は、音で作った詩であり小説であり戯曲である』という意味で使われているんです。ドイツで学んだこの“音楽の本質”を、日本でももっと広めたいと思ったんです。
子どもたちに音楽を教えるとき、五線譜を把握するのは難しいので、何となく弾ければいいとなりがちで、例えば休符ひとつとってみても、なぜここで休符が出てくるのか、そもそも休符とは何かを真剣に理解しようとする姿勢が、日本の音楽には欠けています。
帰国した当時から、日本の音楽教育では技術ばかりが優先されているのはおかしいと感じていました。ただ楽譜通りに上手に弾くのではなく、曲に何が描かれているか、何を伝えたいかを読み解いて演奏することが大切なのです」
だからこそ、室井さんの教え子には、プロのピアニストとして活躍している人も少なくないのだろう。
発見がないとダメ
介護していた父親が亡くなった後、「平屋暮らしだったから、どうしても2階建てに住んでみたい」と、80歳を超えて家を新築したというが、
「防音にすると言ったら、ご近所の皆さんがピアノの音が聴こえなくなるからやめてっておっしゃるんですよ」
とほほ笑む。そんな室井さんは今でも、1日4時間の練習を欠かさない。それは深夜にまで及ぶことがあるという。
「この弾き方の方が綺麗かもしれない、作曲家はこう語りたかったんじゃないか、と考え出したら、それを突き詰めるように、ずっと弾いてしまうんです。音の種類や深さが自分の生き方からにじみ出てくるので、これまで演奏した曲でも自分が変化すれば表現も変わってきます」
以前はつまらないと思っていたバッハの曲も、年齢を重ねるにつれ、曲から匂いたってくるものを感じるというのだ。だから年齢もあまり気にしていなかったと笑う。
「いくつになっても『発見』がないとダメなのよね。同じ曲を何百回も演奏しているけれど、前と同じように演奏しても聴いている人には伝わらないのよ。感動が生まれない。新たな発見があった分だけ、感動してもらえるのです。
百寿のコンサートのときには、そうか私は100歳なのかなんて、あらためて考えました。年齢相応と言われる考え方や行動に縛られるのが嫌で過ごしていたら、いつの間にか100歳になっちゃった(笑)。でもこの頃は、“100歳効果”もあるんだからと、大いに威張ってるのよ(笑)」
エネルギッシュに過ごす室井さんだが、実は70代で肺がんを患っている。96歳のときには大腿骨を骨折し、手術とリハビリを余儀なくされた。それでも「ピアノを弾き続けたい」という一心で、病気も怪我も克服してきた。そんな強靭な精神力と体力を持つ室井さんにとっては、コロナの存在もどうということはないようだ。
「最初は、コロナと人間とのケンカだと思っていたけれども、ベートーヴェンを弾いていてとってもうまくいったある日に考えが変わったんです。コロナさん、私たちはみんなベートーヴェンの音楽に浸りきっていますから、そこにいたければいたっていいのよって」
ポジティブな言葉が、ユーモアを交えて繰り出される。明るく元気に生きる秘訣は、いったいどこにあるのだろうか。