還暦目前のライターの「婚活アプリ」体験記 美女に言われた衝撃の一言、なりすまし詐欺も

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「クソ老人!」

「連絡すんなって書いてあんの読めないのかよ。老眼鏡つけとけよ。てめーからLINEくるだけでゾッとして不眠になるわ。クソ老人!」

 これは登録してすぐにマッチングした41歳の女性からのLINEメッセージだ。彼女は金融関係の仕事に就いている。以前は地方のテレビ局のレポーターだった。アプリでマッチングしたのだから、最初はこちらに好意をもってくれたはず。しかし、青山のレストランで食事をし、R&B系のライヴに行く約束もした後態度が豹変した。なにかが気に入らなかったのだろう。「てめー」も、「クソ老人」も、生まれて初めて浴びせられた罵倒だった。

 次にマッチングした40代の外資系コンサルティング会社で秘書として働く女性は、最初の食事からリッツ・カールトンやグランドハイアットなどラグジュアリーホテルのレストランをリクエストしてきた。しがないフリーランスの記者には高いハードルだ。

 彼女たち二人に共通するのは美しい容姿。ずっとモテてきたのだろう。婚活市場での商品価値が高いという自信が、強気な振る舞いになっていると思われる。

 農耕民族系体形。還暦手前。収入が不安定なフリーランス。バツイチ。“婚活四重苦”の自分は、ハンディを自覚して婚活に臨まなくてはならない。

 学校や職場での出会いや友人の紹介による縁は、人間性がある程度担保されている。交際以前に頑張る姿を見ている。たぶん、やさしい言動にも接している。共通の知り合いがいるので、複数のチェック機能が働いてもいる。一方、婚活は条件で選ぶしかない。相手の性質は、一対一の状況で会ってから知ることになる。

 実際、ほかにもいろいろな女性と出会った。

 40代の終わりに、婚活アプリで当時35歳の日系航空会社の客室乗務員から会いたいとメッセージがきた。プロフィールで見る彼女の顔写真は美しく、明るく笑っている。もちろん即OKして二人で食事をした。

 その帰路、なんとタクシーの中で誘われた。

「今日、してもいいよ」

 からかわれていると思ったが、本気だった。彼女はアプリを通してすでに10人と会い、相手を気に入ったらベッドで試すらしい。

「そのなかで、私にブスッと刺した男は3人かな」

 言っている意味がすぐにはわからなかった。

「だからさあ、あそこにブスッと刺されちゃったって、こ、と」

 ホテルに入ると、誘われた理由が判明した。彼女はM。自分と身体が合うSの男性を探しているのだ。まずベッドで試し、身体の相性がよかったら交際に進む。

「さんざん清い交際をしてから夜の相性が合わないってわかったら、時間がもったいないでしょ」

 彼女はきっぱりと言った。

 結局、筆者は「不合格」だった。ノーマルなので、彼女のさまざまな乱暴なリクエストに対応できなかったのだ。髪を鷲づかみするようなワイルドな攻めはうまくできず、彼女の指導のもとに試みた言葉攻めも、すごみを出せなかった。

「ごめんね……」

 ベッドの上で正座をして頭を下げた。下腹部では“わが子”も、申し訳なさそうにうなだれていた。

 同じころ、大手化粧品会社のCMに出演していたモデルともアプリで出会った。

「私とつり合いがとれるように、1週間であと3キロ体重を落としてきて」

 彼女から指示された。

「えっ、3キロも!」

「そう、3キロ。食べなきゃ落ちるわよ。きっちり3キロ落としてきたら、お泊まりしてあげてもいいよ」

「はい!」

 減量を頑張りホテルで燃えた。“婚活村”でも当然容姿のいいほうが優位だ。

 50代後半にアプリで出会った43歳のデザイナーの女性は美しく性格もかわいかったが、豚を飼っていた。ミニブタを買ったはずが150キロに育ったそうだ。ペットショップに返せば処分されてしまうので、家族として受け入れたという。

 150キロの肉の塊は家の中を走り回り、床を掘る。彼女と暮らせば、豚も家族になるということだ。

 シングルでいる人は、シングルでいる理由をそれぞれ抱えているのだ。

なりすまし詐欺も

 婚活アプリでわかったのは、還暦目前の身でもチャンスはあるということ。本気で婚活をすれば出会える。ただし、成果を上げるにはいくつかのポイントがある。

 その一つは、登録者数の多いアプリを選び、できるだけたくさんの相手に申し込むことだ。数多くアプローチすれば、その分成果も上がる。飛び込み営業と同じ原理原則だ。

 そんな婚活も、コロナ禍で状況が少し変わってきた。仕事を失い、生活苦から脱却する手段として結婚を考えるケースが増えている。

 アプリで出会ったなかにはリストラされて無職になった女性もいた。

「すぐに結婚したいです」

 彼女は食事中に何度も言い、翌日の朝食分もオーダーして自宅に持ち帰った。

 援助交際を求めてくる女性もいた。勤めていた銀座のクラブがクローズし、職を失ったという。気の毒だが、売春の求めに応じるわけにはいかない。こっちも本気で結婚を目標にしているのだから。

 この原稿を書いている今も、マッチングして一度も会っていない35歳の女性から金を無心されている。

 なりすまし詐欺らしきケースもあった。ドナルド・トランプ前大統領の夫人に似た45歳のアメリカ人女性からは毎朝愛のLINEが届いた。

「Good morning honey!」

「Hello my sweetheart!」

 やがてバッグいっぱいの米ドル紙幣とダイヤモンドを預かってほしいと、それを写した動画が送られてきた。彼女は自称「USアーミー」で、お金と宝石はシリアでテロ組織を襲撃して奪ったという。礼として2割を渡すからパスポートの写しを送ってほしいと言われた。むろん断った。

 アプリでマッチングした女性にロマンス詐欺の体験談も聞いた。彼女は結婚を申し込まれ、借金も申し込まれた。断って別れたと言ったが、実際には渡してしまったのかもしれない。

 ここでは婚活体験で印象的だったケースについて書いたが、もちろん常識的な登録者のほうが圧倒的に多い。魅力的な人もいれば、魅力を感じない人もいる。世の中が荒れれば、婚活村も荒れる。婚活アプリ内は社会の縮図だと感じた。

石神賢介(いしがみけんすけ)
ライター。1962年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターに。人物ルポからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手掛ける。著書に40代のときの婚活体験をまとめた『婚活したらすごかった』など。

週刊新潮 2021年6月24日号掲載

特集「コロナ禍の孤独でマッチングアプリ大盛況 したらすごかった還暦目前の『婚活』体験記 前篇」より

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