「いとみち」主演女優・駒井蓮が綴る撮影秘話 津軽三味線との“喧嘩”で出会った故郷・青森の魂
津軽三味線と「喧嘩」する中で見えてきたもの
そして、もう一つ私が悩んだのは、津軽三味線でした。有名な「津軽じょんがら節」や「あいや節」はさまざまな所で耳にしていて馴染みがあったものの、実際に触れたことはありませんでした。また、どのように音を鳴らし奏でていくのかも全く知らなかったため、初めて津軽三味線を手にした時は、大きな不安と楽しみが織り交ざってドキドキしていました。私はピアノを習ったり、趣味でギターに触れたりしていたため、楽器に関してある程度の知識はありました。けれど、津軽三味線は私が今まで経験した楽器とは全く別物で、本当に驚きました。というのも、「耳」だけを頼りにする楽器だからです。ピアノは鍵盤を叩くと、鳴らしたい音を鳴らすことができますし、ギターはフレットに合わせて弦を押さえることにより音を合わせます。しかし、津軽三味線には、ここに指を合わせるとドレミが鳴るよ、という明確な印がありません。つまり、本当に、自分の耳だけを信じて音楽を奏でるしかないのです。それが分かった私は、津軽三味線は、無駄なものを取り払って神経を研ぎ澄まし、全身の感覚を一つにして演奏する、ある意味スポーツのような楽器だなと思いました。また、何故この楽器が津軽という土地で演奏されるのか……ただひたすら指を動かしていくうちに、その答えが分かったような気がしました。
楽器と共に芝居をするのは初めてで、新たな挑戦でした。いとの演奏はどんなふうにしようかと考え続けたところ、これはもうとりあえず弾きまくるしかないと思い、言葉通りただ奏で続けました。余りにも良い音が鳴らないため腹が立ち、津軽三味線と喧嘩しているような時間もありました。そんなふうに日々を過ごす中で感じたのは、津軽三味線に込められた「じょっぱり魂」です。「頑固」という意味で使われる津軽弁ですが、私からすると「頑固」よりもっと熱く、魂を燃え上がらせるようなイメージです。津軽三味線と一体となることで、いとの中で静かに燃えるじょっぱり魂に出会いました。また、それこそが青森、そして「いとみち」の魂なのだと思います。
新型コロナウイルスの影響が続く中、一つの映画、「いとみち」が完成したことは、嬉しいという言葉では表せない程、尊く、ただ感謝の気持ちでいっぱいです。そしてこの作品は、青森という土地に限らず、皆さんの故郷、家族、岐路、喜怒哀楽など、人生の風景の何処かに寄り添う存在になるのではないかな、と私は思っています。横浜監督が汲み上げた青森の魂に、是非、会いに来てください。お待ちしています。
『いとみち』
脚本・監督:横浜聡子
出演:駒井蓮 豊川悦司ほか
原作:『いとみち』越谷オサム(新潮文庫刊)
6月25日全国公開
©2021『いとみち』製作委員会