WOWOWの宝「FM999」を見ると世界中の女性に思いを馳せてしまう 心を抉る「女の言霊」

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 あるメロディが頭から離れなくなることはよくある。スーパーの販売促進曲とかCMソングとか。イヤーワームと呼ぶらしい。耳の虫。言い得て妙だ。でも、これは反復による短期的な侵略程度で、そこに自分の感情が伴うことはほとんどない。

 ところが、最近とてつもないイヤーワームを体験した。どこか懐かしいメロディに、過去に経験した感情など、琴線に触れる歌詞が心を抉る。自分の半生はもちろん、友人や家族や世界中の女に思いを馳せてしまった。「FM999」である。

 毎回劇中に3人の女が登場し、それぞれの「女の歌」を歌うのだが、設定も舞台も衣装もヘアメークもすべてが奇天烈で、ウィットと皮肉に富んでいる。歌詞は痺れるくらい辛辣で面白くて、時に切なく胸に迫って、女の厄介さと面白さを凝縮しているのだ。言っておくが、これはドラマである。主人公の脳内で繰り広げられるのが、この女の歌謡ショー。FMはFemaleの略ね。

 主人公・清美は16歳。演じるのは湯川ひな。彼女の「無防備だが聡い」持ち味は令和のヒロインに必須だ。ただし民放局の「女が低能に見える恋愛モノ」や「女に清純さと優しさのみ強要する男ドラマ」には出てほしくないタイプ。ずっと長久允監督作品に出てほしい。

 清美は5歳のときに母を子宮頸がんで亡くし、父と二人暮らし。父を生理的に嫌悪する時期で対話はほぼない。父親役は岡部たかし。ほどよくくたびれ、デリカシーのなさやジェンダー観の古さを滲ませるが、やや放任主義で娘との距離感を絶妙に愛おしく感じさせる。

 物語は清美の日常。夢も目標もないが、1歳上の新海先輩(倉悠貴)に恋をした。告白して付き合うも、先輩の友人から外見で侮辱される。初体験は14歳でごみ箱に捨てた清美だが、先輩とセックスしまくった結果、絶望を味わって鬱にもなる。

 清美が考え始めると、必ず行き当たる疑問「女って何?」が根幹。この言葉をつぶやくと、脳内にFM999なるラジオが流れてくる。DJは、軽妙洒脱かつ耳に心地よい声で異世界へ誘ってくれるTARAKO。

 流れるは十人十色の女の歌。テーマは労働、恋、かわいい、セックス、家出、鬱、病気、妊娠。28人+1の女たちの歌と言葉が清美を時に諭し、包みこんで、救う。

 歌詞を全部書き出したいくらいだが、研ナオコがムーディかつダジャレで歌う「避妊」と、青山テルマが歌う「家出とネットの危険性」は特に全国の女子中高生に聴いてほしい。イヤーワームになったのは宮沢りえの刷りこみの歌、女に恋するモトーラ世理奈の歌、働く女をサイに例えた塩塚モエカの歌。うっかり泣かされたのは内田慈の歌、西田尚美(清美の母)の歌、最終回の心臓の歌。あれ、泣きすぎ? 私、死が近いのか?

 誰かに歌わされるのではなく、心のままの女の言霊。不要な刷りこみや無意味に背負わされる罪の意識を笑って蹴りとばす。ここまでシニカルでコミカルかつヴィヴィッドに女を表現できたドラマは稀有。WOWOWは家宝(社宝?)にして。民放局の人は爪垢もらえ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年6月24日号掲載

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