丸佳浩に復調の兆し 阪神戦を勝ち越して一番良かったこと【柴田勲のセブンアイズ】
ゲーム差が「8」と「6」では大違いである。巨人にとっては前半戦の天王山だった18日からの首位・阪神との3連戦(甲子園)をなんとか2勝1敗で勝ち越した。
3連戦前のゲーム差は「7」、これが1勝2敗なら「8」となっていたし、3連敗なら「10」、一気にお通夜ムードになっていたと思う。巨人に負けが込みだすと、長嶋(茂雄)さんが言うところの、「メークドラマ」(※)なんて言葉が喧伝されるけど、そんなことは滅多に起こらない。
でも今回の勝ち越しで原辰徳監督、坂本勇人主将は「まだいけるぞ。みんなで頑張ろう」となんの違和感なく言える。希望が持てる。これをチーム一体で共有できるようになったのが一番の収穫だと思う。
それにしても第1戦、1対7で大敗した時は昨年の日本シリーズ第1戦を思い出した。ソフトバンクと巨人では勢いがまるで違っていた。同様に先発のC.C.メルセデスが阪神打線に序盤から捕まり3回途中6失点でマウンドを降りた。
打線は4回、ゼラス・ウィーラーの適時打で1点を返すのがやっとで、西勇輝から及川雅貴、岩貞祐太に封じられた。阪神は6連勝中の勢いもさることながら、チーム力も違うと感じた。
これはもうダメか、3連敗かと嫌な予感がしたけどよく勝ち越した。巨人にとっては天王山でも、阪神にすれば1つ勝てばいい、3連敗だけは避ければいい。こんな感じではなかったか。油断とまでは言わないものの、似たものがあったような気がする。
第2、3戦、先発の戸郷翔征、高橋優貴がよく踏ん張った。戸郷はそれほど良くはなかったが悪ければ悪いなりの投球で7回を2失点でしのいだ。エース・菅野智之が今季3度目の登録抹消中だが、立派に責任を果たした。3戦目の高橋も5回を丁寧な投球で阪神打線を無失点に抑えた。粘りもあった。これで戸郷と並ぶ7勝、今後も期待できる。
ファームで再調整をしてきた丸佳浩に復調の兆しが見える。これまでは打席に立つと妙に小さく映った。不調になると、どうしても背中を丸める。猫背になる。
不調に陥ると、よく「姿勢を良くしろ」と言われる。胸を張って、背筋を伸ばすことが大事だ。お腹を中心に回転する。これができ始めているのではないか。19日の2戦目では猛打賞をマークしたが藤浪晋太郎から放ったバックスクリーンへの一発は見事だった。
ジャスティン・スモークが退団したいま、丸がこれからのカギを握る一人と言っていい。相手投手にとって実に嫌な打者だ。岡本和真は確かに一発が魅力だが、反面もろい面がある。丸は長打力はもちろん、ここという場面で勝負強い打撃をする。
丸、岡本和、坂本の3人がそろってこそ、打線の破壊力は増す。藤浪からの一打が丸にとって本格復調への呼び水になると思いたい。
スモークの退団もあって、今後松原聖弥は欠かせない戦力になった。3戦目で秋山拓巳から右翼ポール際に運んだ先制弾は3連戦勝ち越しを呼んだ。
ケガで離脱している梶谷隆幸の復帰が近そうだが、起用し続けると思う。左翼の守備に難があるウィーラーを一塁に固定すればいい。中島宏之も一塁で起用できる。
松原は足もあれば肩もいい。代打要員の時期があったけど、黙って起用を続ければ結果を出す。その点、惜しいのは吉川尚輝だ。せっかく二塁のポジションをつかみかけたのにケガで離脱だ。これまでも何度かこんなことがあった。亀井善行もそんな傾向があった。やはり、ケガに強くなきゃと思うね。
3戦目、原監督は同点の6回無死一塁で、好投の高橋に代えて代打に香月一也を送ったが送りバントに失敗して、結局は見逃し三振に倒れた。すると、ラバーをたたいて怒りを露わにした。珍しいシーンだった。松原のアーチはこの直後だった。
さらに7回、3番手の高梨雄平が2死二、三塁とし、北條史也を2―2と追い込んだところで鍵谷陽平にスイッチ、三振で切り抜けた。昨年もこのような継投策が2、3回あったが、この試合、絶対に落とせない。原監督の執念のようなものを感じた。
さあ、これからは一戦一戦が大事になってくる。22日からはDeNAと金沢、富山と続く北陸シリーズ2連戦だ。私の現役時代は試合が終わるとユニホームのままでバス移動した。それも1台だった。いまは2台になっているのかな。大変だった記憶がある。
巨人が18日、OBの中村稔さんが6月2日に亡くなったことを発表した。私よりも5歳年上の82歳だった。
一報を受けた時、信じられなかった。約2カ月前、食事しているところにバッタリ出くわしていた。
「勲、元気か?」というので、「私も元気にやっています」と答えた。
「オレはいま一人なんだ、お前も一人なんだろう。元気でやってな」
「(中村さんも)元気でなによりです」
こんな会話を交わした。1965年に20勝を挙げて、V9初年度の優勝に大きく貢献した。スライダーがすごくいい投手だった印象がある。残念だし寂しい。心からお悔やみ申し上げます。
※「メークドラマ」は長嶋茂雄による和製英語。1995、96年によく使われた。96年に最大11・5ゲーム差から逆転してリーグ制覇した。2008年は阪神が7月8日時点で2位の巨人に最大13ゲーム差を付けて独走したが、巨人は9月に12連勝して猛追、最後は143試合目でVを飾った。「メークドラマ」に対し、「メークレジェンド」と呼ばれた。