白内障の負担を軽減、最先端のレーザー手術とは 手術費は5万円で日帰りが一般的
白内障は、カメラのレンズのような働きをする水晶体が白く濁り、透明性が失われてしまう目の病である。混濁によって外部からの光が遮られて視力が低下する。大きな原因は加齢で、水晶体内のタンパク質が異常に凝集することで起こる。
日本眼科学会理事長の大鹿哲郎・筑波大学附属病院眼科教授はこう語る。
「症状として最も多いのは視界が霞むこと。全体的にモヤがかかったようになります。近視はピントが合えば見えますが、白内障は全体的にぼやけてしまう。高齢者に限らず、近視が強い人は40代でも白内障になるリスクがあります」
軽い症状を含めると50~60代で約半数、70代で80%超、80代ではほぼ100%の人が罹患するという。
もちろん、年齢を重ねても水晶体がきれいな人はいるものの、ほとんどの高齢者にとって避けることのできない目の病と言える。
点眼薬によって白内障の進行を遅らせることもできるが、水晶体の濁りを取り除くことはできないため、やはり有効な治療法は“手術”となる。具体的には、濁った水晶体を超音波で砕いてから取り除き、“眼内レンズ”を挿入する。麻酔薬を点眼して行うため、痛みを感じることはほとんどなく、日帰り手術が一般的だ。
「日本の手術件数は毎年増え続け、現在は年間160万件ほど行われています。高齢化による患者数の増加に加え、手術を受けるタイミングが早くなっているのも事実です。手術の方法が“レンズの交換”なので、手術を早くやっても、遅くやっても結果は同じ。見えづらい状態を我慢しているほうが損だと思います」(同)
眼内レンズには、一定の距離にピントが合う単焦点眼内レンズと、複数の箇所にピントが合う多焦点眼内レンズがあるそうだ。
人間の水晶体は、若い頃は透明で軟らかい。水晶体に繋がる毛様体筋を収縮させることで、水晶体は分厚くなり、手元にピントを合わせることができる。カメラとは違って、レンズ自体の厚みを変化させてピントを調節するわけだ。硬い眼内レンズはそうした調節ができず、最初に焦点距離を決めておかなければならない。
東京慈恵会医科大学附属病院・眼科の増田洋一郎講師は、二つの眼内レンズの違いを次のように説明する。
「単焦点眼内レンズは従来からあるもので、“遠く”、“中間”、“近く”のどこか一点にピントが合うよう作られており、患者さんは生活パターンに合わせて、どれかを選択します。焦点が合わないところは眼鏡が必要になりますが、非常にシンプルで見え方がきれいなのが特長です。一方、多焦点眼内レンズは、単焦点眼内レンズでは見えづらかったところに焦点が合うため、老眼鏡を使わなくても生活できる便利さがあります」
「FLACS」
とはいえ、多焦点眼内レンズはまだ発展途上で、遠くと近くは見えるけれど、中間は少しぼやけるなど、どこにでも焦点が合うわけではない。
「副症状として、夜の街灯が滲んで広がったり、リング状のもやがかかったように見えるハロー・グレア現象が発生します。また、単焦点眼内レンズに比べてコントラストが落ちたり、色合いが変わるという指摘もあります。アーティストや写真家など、色合いに敏感な職業の方には向いていないかもしれません」(同)
東京慈恵会医科大学附属病院・眼科では、単焦点眼内レンズを使う手術が圧倒的に多く、多焦点眼内レンズは約10%だという。
ちなみに一般的な手術費用は、3割自己負担の単焦点眼内レンズで5万円前後。これまで健康保険が適用されていなかった多焦点眼内レンズは、全額自己負担で高額だったが、昨年4月から選定療養(レンズの差額のみを自費で支払う仕組み)となって患者の負担が軽くなった。医院によって料金体系がまちまちなので、手術前にはきちんと確認しておく必要がある。
白内障治療を巡っては、多焦点眼内レンズの普及とともに、「FLACS(フラックス)」と呼ばれる、レーザーを併用した最先端の手術も行われているという。
「白内障の手術では、術者が手作業で水晶体の入っているカプセルの前部を切開します。ただ、どれほど熟練した術者でも、丸く開ける穴の大きさや形にばらつきが出てしまう。その点、FLACSはコンピュータ制御で行われるので、極めて正確に、意図した大きさで、しかも、目に負担をかけずに切開することができるのです」(同)
とりわけ、多焦点眼内レンズを挿入する際は目の中心にぴったり一致させないと、レンズの機能が最大限に発揮されない。そのため、同病院では、多焦点眼内レンズの手術はすべてFLACSで行っているという。ただしFLACSはコストがかかるため、設置している施設がまだ少なく、ほとんどは手による手術が行われているのが実状だ。
白内障は、ある意味で高齢になれば誰もがかかる目の病。だが、治療方法が確立されているため、安心して手術を受けることができる。我慢するよりもまずは医師に相談すべきだろう。